印刷のネット通販は景気のいい話などまったくきかない印刷業界でここだけはという成長分野なので、サイトたちあげを検討しているというところまでは先々月のこのコラムでも書いた通り。
そして無謀にも通販サイトを実際にたちあげてしまったのである。PDF受付のフライヤー印刷なんていうサイトはいくらでもあるので、出版印刷を生業としてきた当社得意の冊子印刷専門というところをねらった。
最初は、印刷の工程管理とか営業の仕事をネットで置き換えればいいとおもっていたわけだけれど、これが実際にはあまりにも難しい。今までいかに人に頼って、標準化されていなかったか思い知らされることになる。
苦しいのは、「冊子」と行った場合、フライヤーのように仕様が一定というわけではないことだ。判型もさまざまだし、製本仕様もバラパラだ。カラーもあればモノクロもある。紙にしても、表紙、本文、見返し、扉とそれぞれ指定を聞かなければならない。ここはある程度「この紙しか使えません」というように見切るべきなのだろうが、なかなかそこまでは踏み切れない。「しか使えません」とやってしまったのでは、注文の幅をせばめている気がするし、そもそも通販の需要がどこにあるのかがこちらもさっぱりわからないのだ。スカタンな領域で「これしかできません」とやっても注文はくるまい。といって、使える紙の仕様をズラズラと一覧表にしたとしても、専門外のクライアントに適切に選んでもらえるとも思えない。結局は、営業にメイルでご相談くださいという表現になってしまう。それで、はたして通販の手軽さが実現できるものだろうかと思わないでもないのだが、とにかくまずは需要をさぐる上でも、先へ進むしかない。
そして、こうした通販の計画が公になってくると、社内各部署からの注文が増えてくる。プリプレス現場はただでさえトホホファイルに悩まされているという経験からか、精緻で膨大な「データ入稿時の注意点」や「取り扱えるファイル・フォント一覧」といったページを載せて欲しいと言ってくる。ただこうしたページはあまり細かく書いたとしても、保険の約款と同じで誰も読まなくなる。重要な項目のみポイントを絞ることが重要なのだが、これが難しい。どの項目が重要で必須かと議論をすればするほどそれぞれの主張が錯綜して話がまとまらない。「PDFに限る」としてしまえば簡単なのだろうが、それでは注文の幅が狭くなるという紙での議論を繰り返すことになる。
営業は営業で、価格を明示するならば、価格水準について充分協議して欲しいという。今まで定価というものに馴染みのない世界で仕事をしてきた営業は価格の明示ということには抵抗を示す。特に最も安いPDF入稿価格で呈示せざるをえないのだが、営業は「クライアントはPDFも組み版も区別がついていない。一度PDF価格が公にでてしまったら、もうそれが一人歩きして他もみんなその価格を要求されはしないか」とおそれるのだ。
ただ、考えてみれば、こういった問題は別に印刷通販でなくても充分統一見解を考えておくべき事なのだ。今までは、個別に営業が対応していて、会社全体では価格一つ共有されていなかった。印刷通販という会社を代表するサイトを公式にたちあげていくからこそ、こうしたことを充分に会社全体の見解として決めておく必要があることに気がついたというわけだ。これはこれで通販サイトプロジェクトの思いがけない収穫でした。
たちあげた当日。早速に問い合わせの電話がはいった。問い合わせはメイルで来るとぱかり思っていたから意表をつかれたかたちだった。残念ながら、問い合わせはあるがまだ成約には結びつかない。でも、あきらめずに改良を続けていくしかなかろうな。
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