第13回 パソコンはどこへ行く|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第13回 パソコンはどこへ行く

 パソコンの性能向上はとどまるところを知らない。もうここまでくれば、あとはやることがないのではないかという水準になってもまだ進化を続ける。自動車や飛行機なども進化を続けているが、最高速度など基本的な性能については、法的規制や公害問題があるにしても、もう伸びる余地はあまりない。すくなくとも私の子供の頃と極端にはかわっていない。それにくらべてパソコンの進化は桁違いである。CPUのスピードやハードディスク容量など10年前と比してもまさしく桁違いである。


 しかしパソコンというのはそれで便利になったのかというと、いつまでたっても便利にならない気がする。確かに機能は増えた。動画が処理できるようになるなど、新しい使い方も出来るようになった。組み版に使うにしても、昔と比べればスピードに対するストレスはすくなくなった。その意味では確かに便利になったとはいえるが、なんというかパソコンを維持し使い続けるのにかかる手間はあまり変わらないような気がする。


 一番やっかいなのがセキュリテイである。昔のパソコンは機能が低くて、できることも少なかったが、セキュリテイの配慮などなかった。なかったからスイッチを入れればそのまま使えた。もちろん当時はパソコンを巡る悪意がすくなかったからこそなのだが、今のパソコンでは何をやるのにもIDとパスワードが要求されるのは煩雑なことこの上ない。つまり便利ではないのだ。そしてこのセキュリテイ機能自身が、トラブルを次々おこしてくれる。LANで他のパソコンに突然つながらなくなったり、「最新ウィルスパターンをダウンロードします」と表示がでたまま凍ってしまったり、この解決にセキュリテイソフトに電話をかけて、メイルを送ってしようとしても、またセキュリテイの壁にはさまれてなかなかすすまない。何か、便利になれば、それを帳消しにするような、マイナス面があらわれてくる。


 少しさかのぼってWindowsをはじめてインストールした時も、LANを家中にひきまわしたときも、導入すれば画期的に便利なるはずなのだが一筋縄でいかなかった。何をやってもうまくいかず、メーカーや販売店に電話をかけ、パソコン通信の掲示板に問いかけ、やっとのことで動かしたものだ。それに限らず。便利になるとはいっても、こんなに面倒なのでは願い下げだと思ったことは数限りない。新しいことや複雑なことをやるからトラブルをおこすのかというとそうでもない。LANなどは、いつの日かケープルをさしこむだけで簡単につながる時代がくるかと思っていたが、一向にそうはならない。それこそセキュリティがただちにたちふさがる。難しい設定などなにもいらない自動設定ソフトなどというのにも、たいがいだまされた。自動的にはなかなか動いてくれないのである。


 私のパソコンに対するリテラシーが年齢とともに落ちたのか、知識が古くなってしまったのだろうか。今の若い人々は生まれる以前からパソコンがあったわけで、子供の時からパソコンをさわり続けるとおのずとパソコンの複雑な設定方法が身に付くということはあるかもしれない。造作もなくコンピュータの原理が理解でき、インストールやセキュリティ対策など朝飯前なのだろうか。しかし、掲示板にあふれかえるトラブルの解決を求める質問を見ているとたいして状況はかわっていないように思う。本当に若い人があっさり使えているわけではないのだ。


 もちろん、設定が簡単になっている面もある。無線LANの設定などは、新たに機械を買うたび簡単になっていく。しかし簡単になったころには、さらにまた新しく機能が増えたり、セキュリティが厳しくなったりするということなのだ。いつまでたってもゴールが見えない。簡単なパソコンというゴールに近づけば、いつのまにかあらたな機能とともに複雑な設定が増えて、ゴールが遠くなっているという感じか。


 安くて簡単なパソコンがあればそれでいいんだがなあ。



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