第48回 I=I+1|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第48回 I=I+1

 実は、ついにオンデマンド印刷機を入れてしまったのですよ。この不景気の中、設備更新ではなく新規設備投資なんてとんでもないとも思いつつ、これまでこのコラムでオンデマンド印刷機をもちあげてきた責任もありますし、なんといってもオンデマンドで、やってみたい仕事が多すぎる。結局のところは、「そこまでオンデマンドに感心のある会社に我が社のオンデマンド機がはいってないのは営業の恥」とばかりにせまってこられるメーカーさんにまけてしまったということなのですが。


 工場にいれて動かしてみると、これがおもしろい。色々なことができる。メーカーの想定したような仕事もいいけれど、こうした新しい機械の本当のおもしろさは、新たな用途を発見することにある。早速、市販のハガキ作成ソフトと組み合わせて、4丁付け簡便ハガキシステムを作ってみた。1万円以下のソフトでオンデマンドハガキシステムのできあがり。年賀状が楽しみです。もちろん、トラブルもあるけれど、ひとつつひとつどうすればいいか考えていくのが楽しい。


 さて、オンデマンド印刷の白眉はなんといっても可変印刷である。一枚づつ、宛名とか、番号とかを換えながら刷るというもので、印刷という概念を根本から覆す。こればかりは、従来の印刷技法ではさかだちしたってできない。ナンバリングはかろうじて、従来印刷でもできなくはないが、平版だと苦労する。今まではナンバリングのある活版屋さんに頼んできたが、これも先が見えてきていた。これがオンデマンド機だと、なんの付加機構もなく可能だ。とりあえずこの電子ナンバリング機能に挑戦してみる。


 できました。機能としてついているのだからあたりまえだけれど、次々と順番にかわった数字が出力されてくるのは、感動物です。活版の組み込みナンバリングは歯車とテコのような目に見える機械の動きだったが、こうした電子ナンバリングはまるで魔法である。もちろん、実際に印刷物としてできてくるわけだから、原理はある。


 I=I+1である。その昔、パソコンがではじめた当時、BASICというプログラム言語ができないと仕事ができなかった。このBASICの最初にでくわした謎の数式がI=I+1だった。要は、1の次は2、2の次は3とひとつづつ増やしていくというのをI+1と表現し、ひとつふえたのをまた元にしてという意味でI=がついている。


 これが象徴的なのだ。1から1000までの数値を出力しなさいと言ったとき、手動写植や活版の経験者、いやワープロのベテランでも、おもむろに1,2,3,4,5,6,7,8と何の疑問もなくうちはじめる。ところが、プログラムを習ったり、パソコンの表計算を経験した人だと、すぐにI=I+1を思いつく。これ1行を書くだけで、コンピュータは、あっというまに、1000でも10000でも数字を羅列してくれる。この発想こそがパソコンの本質と言っていいかもしれない。ただし、今までI=I+1はパソコンの世界でのできごとでしかなかった。実際の印刷現場ではあいかわらず、愚直に1,2,3,4の入力を繰り返してきた。


 オンデマンド印刷機は、このI=I+1というプログラム的な発想を実際に目にみえる印刷物・商品に直接にむすびつけることを可能にした。これは単にナンバリングという話だけにとどまらないと思う。発想次第では印刷の枠を大きく拡げそうだ。それが具体的になにになるかは、これからのお楽しみだな。


 さて、48回、まる4年にわたったこの連載ですが、さらに続きます。それこそ、I=I+1を内蔵したように続く連載になってきましたね。なお、連載40回までをまとめた単行本もでてますので(買ってね)、次は80回まで連載をのばしてPART2出版といきたいですね。



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