カラープリンタの性能向上は著しい。逆に価格はどんどん下がっていく。少し前は夢でしかなかったカラーの印刷が、素人でも簡単にできるようになった。必然的に、そのデータファイルがそのまま入稿してくる。まず、作り方自体に問題のあるトホホファイルが多いのに泣かされるのだが、一見しっかり作ってあっても、色再現には苦労させられる。元々、クライアントのコンピュータのカラーマネジメントがしっかりしているわけがないのだ。
いや、素人のことばかりは言っておれない。全部印刷会社で作ったとしても、カラー印刷の場合、校正段階でこのカラーマネジメントの問題がでてくる。初校から、全部、色校正機かDDCPでも使えばいいのだろうが、なかなかコスト面の問題もあってそれにはふみきれない。ついつい、初校はモノクロプリンタで文字校正、再校で、カラープリンタで色がついているかどうかの確認、やっと三校で色校正と言うことになる。モノクロプリンタの場合はまだしも誤解がすくない。「最後には色がつきます」と言っておけば、勘違いするクライアントはまずない。頭痛のタネは、カラープリンタによる色校正だ。「これは校正ですので汚いですが、本番はちゃんとでます」と営業に言わせても、最終的な仕上がりを誤解して、「色の出が悪い」というクレームがつく。
しかし「色の出が悪い」方は、印刷会社の上司がクライアントにでかけていって、「最終段階ではちゃんと出ます」というのをもう一度説明するとなんとかおさまる。やっかいなのは、最終段階で再校時(カラープリンタ)の色にあわせてくれ、あるいはカラープリンタの時に出ていた模様をちゃんとだしてくれというクレームがつくことだ。この模様というのは、細かなグラデーションを使ったときなど、低解像度のプリンタでは対応できず、モアレのようなギザギザ模様がでてしまうことだ。ところが、スムーズなグラデーションではなく、この模様の方を実はクライアントが気に入っていたりするのだ。
「再校は、カラープリンタの出力であって、本番のオフセット印刷と違うのが当然です」
と言っても、いったん、それでOKをだしたのだからと相手はゆずらない。しかも、クライアントの側で、すでにお偉いさんから、そのカラープリンタ校正で決裁がおりてしまっている場合などは、下の人は安易に納得するわけにはいかない。
「確かにここに模様がついているというので、社長は、『斬新』だってほめてくれたんですよ。今更、本番では出ませんなんていえませんよ」
ということになってしまうのである。結果として、カラープリンタを握りしめて、営業が現場にねじこむことになる。
「理屈は知らないよ。しかし、29800円のカラープリンタでできることが、なんで何千万もするセッタでできないの。この通りの色と、模様をだしてよ」
現場にして見れば、質の悪い方にあわせるわけだから、もうひとつ気が乗らない上に、結構、むずかしい作業になったりする。「えーい、このトホホ色校正め」ということになる。
これも過渡期のエピソードということになるのだろうか。すべては完璧なカラーマネジメントシステムが安価に供給できれば、解決のつく話なのだ。もっとも、そんなことがたやすく達成できるとは思えない。百歩ゆずって社内のシステムでできたとしても、カラートホホデータを作り続けるクライアントのみなさん全員にカラーマネジメントのなんたるかを理解してもらうというのはほとんど絶望的だ。しばらくは営業に泣いてもらうしかないでしょうねえ。