第13回 オンデマンド印刷機がおもしろい|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第13回 オンデマンド印刷機がおもしろい

 今回は印刷機のお話である。このコラムが、「コンピュータ奮戦記」である以上、印刷機の話題と言うのはこれまであまりやらなかった。印刷機とコンピュータはさすがに領分が違うものだったのだ。ところが、今、印刷機の領分にまで、コンピュータが進出しつつある。オンデマンド印刷機というやつだ。コンピュータの組版データや画像データを製版工程を介さず、直接、印刷機に送り込んで印刷してしまう代物だ。昨年のIGAS’95でも、あちこちのブースでオンデマンド印刷機が展示されていた。その前のIGAS’93では、参考出品に留まっていたものが、今回は商品としての出品になり、急速に実用化したことをうかかがわせる。


 オンデマンド印刷機には大きく分けて、E-printやXeiconのように、コンピュータのプリンタが進化してきた系統のものと、ハイデルベルグのクイックマスターDIのように、コンピュータからの信号を版胴に直接受け取る、従来の印刷機構を色濃く残したものの系統に分かれる。まだまだ、実用化は始まったばかりで、制約も多いし、品質も決していいとはいえない。ただ、クイックマスターDIは従来の印刷機に近いこともあり、品質面での遜色はないように見えた。他の機種も、おそかれ、はやかれ、品質的には問題がなくなるだろう。


 コンピュータのデータを直接、版動に送り込んでしまうということになると、製版工程がまったく不用になり、印刷会社の複雑だった工程が、コンピュータとオンデマンド印刷機に一気に整理されてしまう。そして、単に工程を単純化するという以上に、オンデマンド印刷機の可能性は大きい。オンデマンドとは要求があったときにすぐに要求のあった数だけに応じることができるという意味なのである。なにせ、コンピュータから直接、印刷機におくりこんでしまうのだから、速い。たとえ、印刷機としては速度が遅いにしても、プリプレスがほとんどコンピュータで自動化されている上に、版替えなどの手間がないとくるから、トータルの作業時間はすくなくなる。少部数のときには圧倒的な時間短縮となるだろう。今まで100000枚刷るのも、100枚するのも、製版し、刷版をつくる点においては同じということで、小部数のカラー印刷などは非常に割高なことになっていた。これが解消されるわけで、全く新しい市場をほりあてるかもしれない。


 私は、オンデマンド印刷機が印刷工場にやってくることについて、別の意味で期待している。これで、印刷工場が、最初から最後までも完全にコンピュータ世代の活躍の場となるということだ、というのも、私達の世代は、コンピュータには詳しいが、印刷機には疎い。コンピュータは新しい機械だけに若い人間が活躍できる余地があり、自然と責任も持つようになっているが、印刷機はまだまだ熟練の職人さんががんばっている世界だ。若造では、口もはさみにくいというところがある。ところが、オンデマンド機は印刷機の格好はしていても、なかみはコンピュータのプリンタそのものである。こうなってくると、コンピュータ側の人間が機械現場に対しても物がいいやすくなる。今まで、プリプレスはプレスの従属品的な考え方をされてきたが、これが逆転してくることになる。コンピュータ側の発想が最終的に印刷工場そのものをかえてしまえるわけだ。品質管理や工程管理のコンピュータ化などもずっとやりやすくなってくるだろう。


何にしても、一台欲しいなあ。オンデマンド印刷機。



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