動画全盛の時代である。居間には大型の液晶テレビが鎮座し、携帯電話のワンセグ機能は当たり前となり、インターネットでは動画サイトが大流行である。特にインターネットの動画はテレビの放送と違って、見たいときに見たいだけの動画が無限に見られるという点、新たな文化現象となりつつある。それに対して、当然のことながら、言うまでもないことながら、印刷は動かない。ハリーポッターじゃあるまいし、本の中の写真が突然動き出して読者に語りかけたりはしない。静止画としての品質は印刷の方がはるかに上だけれど、動かないということは決定的に不利だ。もちろん、すべてが動けばいいというものではない。文字ばかりの小説を読むときに、挿絵が動いたりすればそればかりに気をとられて小説を味わうどころではないだろう。
それでも、やはり動いてもらいたいときはある。数多くのインターネット動画が証明しているように、写真を動かした方が説明しやすいものはある。たとえば、機械の操作法などは、イラストでいくら丁寧に書いたとしても、動きそのものは矢印を使ったり、枚数を重ねたりするほかない。これが動いてくれれば、そして喋ってくれれば、どれだけ簡単に説明できるのにと、しょっちゅう思ってしまう。
なんとかこのインターネット動画と印刷物が結びつかないだろうか。
実は簡単だ。印刷そのものは動いてくれなくても、動かそうという動画をインターネットで見せればいいだけのことだ。いわば印刷とインターネット動画のコラボレーションである。動かない印刷の写真の横に、動画サイトのURLを書いておけばいい。これで本を読みながらURLを入力すれば動画が動く。さて、簡単にはできるのだが、はたして、本の横にパソコンを常においておき、見たい動画があれば、目をパソコンに移してURLをうちこむというような使い方を本当にするだろうか。できそうもない。それぐらいなら、はじめっからインターネットの電子書籍を利用して、クリック一発、動画を見るだろう。
本はどこで読まれるかわからない。電車の中で空港の待合いで、本のそばにパソコンがあるなどと言う場面は想定しない方がいい。
では、携帯電話ならどうだろう。携帯はいつも持ち運ぶから携帯、インターネット動画ではなく携帯動画。動いていただきたい写真のそばに携帯電話のURL。いやいやここまでいけばもう一歩。QRコードである。あの4画のシミのようなコード。最近、携帯電話でQRコードを読みとらせて、宣伝用のサイトに導くという使われ方がされている。つまりこうだ。
動画を携帯サイトに用意しておく。そして、そのURLをQRコードにして写真の横に刷り込んでおくのである。写真の横にあるQRコードを読めば、動画が動き出す。これだとわりあい実用的だろう。
実は、これを作ってみたのだ。いきなり商品化は難しいので、うちの会社案内を利用した。会社案内をめくればでてくる社長の写真。その横にQRコードを印刷しておき、これを携帯電話で撮ると社長が挨拶をはじめる。
実際にやってみると、携帯キャリアごとに動画の仕様が違うので、携帯キャリア選択の画面をはさむ必要があったり、画像のダウンロードに時間がかかったりする。どうも、QRコード撮影一発ですぐに写真が動き出すという感じにはならない。もっともこれは第一歩だ。まだまだいろいろな改善が考えられるし、QRコードの方も進歩するだろう。カラーQRコードといった新しい技術を使えば、QRコードと意識させずに、写真そのものを撮影すると、動画が動き出すといった使い方ができるかもしれない。
実際、この会社案内をクライアントに見せてみたのだが、みなさま一様に興味しんしん、そして社長が喋ると、笑いがおこった。失笑というのではない、「おもしろいな」という感じの温かい笑い。うまくいくかな。