第30回 電子メイル|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第30回 電子メイル

 いまさら、電子メイルを話題にするなんてと思われるかもしれない。このコラムでも私がいかに電子メイルを使って仕事をしているか何度も書いてきたし、このコラム自体、初回から原稿は電子メイルで送っている。今となっては、別に珍しくもなんともない電子メイルといえそうだが、本当のところあなたは実際に使ってますか?そう、電子メイルという奴、10年前から使う人は使っていたが、使わない人は使っていなかった。ある程度のコンピュータ知識が要ったからである。なかなか電話やFAXのように簡単に使えるというわけにはいかなかった。


 ところがである。今年にはいってから、急にかわった。大学や大企業中心だった使用層が一気に拡がって、主婦や中小企業まで拡がりだしている。うちの会社でも、今年になってから、女子事務員から、一般の営業にいたるまで使いだした。我が社の場合、事務部門にパソコンを揃えて体制を整備したという面もあるのだが、もはや電子メイルを使わざるをえなくなってきているのだ。


 ご承知のように、私は草分けの頃からパソコン通信をやっていたわけで、当然ながら、電子メイルの便利さも知り尽くしていた。フロッピー入稿より便利だからと、電子メイルを使いそうな大学の先生には原稿の電子メイル入稿を勧めてきた。ところが、電子メイルは電話やFAXのように、会社宛ではなく個人宛に来る。正確に言うとパスワードをもった個人にしか読めない仕組みとなっている。通信の秘密を守るためだ。たとえ、社員であっても電子メイルの宛名でない他人が受け取るわけにはいかないのだ。だから、いったん私宛に電子メイルで原稿が送られれば、私がいないと受け取ることができない。去年あたりは、電子メイルで原稿を送っているのに、私が不在なために原稿を受け取れないという事態が頻発した。


「先生が原稿は電子メイルで送ったっておっしゃるんですよ。速く電算写植にまわさないといけないし、はやく電子メイルを受け取ってください」


 というのを何度いわれたことか。


 私にしたって、これではたまらない。日に何十通も、本来私宛てではない電子メイルが送られてくる。電子メイルでもなければ、こんな原稿の受け取りはそれぞれ担当の社員がするべきことなのだ。従って、私が「みんな個々人でアドレスをもってくれ」というのと、社員が、「こんなことなら、私宛に直接電子メイルが送れるようにしてください」言い出すのが同時であった。


 結果、今年のはじめから社員一人一人が電子メイルアドレスを持つことになり、いつのまにか、社内で電子メイルが普及していたというわけだ。いまや、一体どれだけの量の電子メイルが会社にとびこんできているかもわからない。


 そしてまあ、ついにというか、やはりというべきか。うちの母までがアドレスを取得した。インターネットのWWWも使いたいと意気軒昂である。母の年齢は明らかにすると母に怒られてしまうのでここでは秘すが、40歳である私の母であるのだから、おおむね類推できるだろう。うちの母は交友関係も広く、結構、ワープロを使って文章を書いたりするタイプで、今まではFAXを使いまくっていた。それが、この時代になると電子メイルを使わないと不便だといいだしたのだ。時代である。


 そのうち、この小さな印刷屋の社屋内で社内電子メイルが飛び交うというのも、あながち笑い話とはいえなくなってきた。



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