第6回 改札口から印刷の未来を考える|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第6回 改札口から印刷の未来を考える

 都会の改札口から人がいなくなって久しい。自動改札が普及して、カード1枚改札通過になってしまったからだ。ただ、私のように全国を出張して回るような生活をしていると、各土地毎にカードを別々に揃えておかねばならないのが、悩みの種だった。東京私鉄・公営交通のパスネット、JR東日本のオレンジカード、関西私鉄・公営交通ののスルッと関西、JR西日本のJスルーカード、名古屋のユリカードと数え上げればきりがない。財布の中にはその他テレホンカードやキャッシュカード、クレジットカード、各店ポイントカードまで入れているものだから、いざとなると間違える。どれも表の絵柄だけではなんのカードか判別がつかないのだ。結果として、東京の営団地下鉄で間違えてスルッと関西を自動改札に通して、バーに行方をふさがれるというようなことはしょっちゅうだった。


 これが、この春頃からICカードICOCA1枚でほぼすんでしまうようになった。ICOCAは私の地元JR西日本のカードだけれど、東京のSUICAの地域でもそのまま使える。当然SUICAもICOCA地域で使える。しかも関西の私鉄や公営交通共通のPITAPAの改札口でも使えるようになった。つまりは、関東関西のJRと関西の私鉄・公営交通はICOCA1枚で全部使えてしまうのである。しかもICカードなら、運賃だけでなく、クレジットカードのように物も買える。今のところ駅構内に限られていたりするが、ICOCA1枚あれば現金を使うことはほとんどなくなってしまう。しかも、カードは改札口で特定位置にかざすだけ。磁気カードのように自動改札に通しもしない。


 これだけ便利な上に偽造にも強いというので、ICカードの普及は急だ。いずれは高額買い物はクレジットカード、少額買い物はICカードという具合にキャッシュレス化は進むだろう。オレンジカードやテレホンカードのような磁気カード系のプリペイドカードは急速に衰退していくと思われる。


 さて、印刷の需要がここでも食われていることにお気づきだろうか。まずは、カードの普及で現金の印刷は減るわけだが、これは財務省印刷局レベルの話だから横に置くとしても、表の絵柄の印刷が減るのは明白だ。一時期テレホンカードをはじめプリペイドカードの表面印刷というのは中小印刷会社のドル箱だった。それこそ、あらゆる領域でプリペイドカードが発売されたから、その恩恵にあずかった印刷会社は数多い。ところがICカードは使いすてではないのでもそも数がすくないし、その表面の印刷といっても、テレホンカードのように簡単ではない。あまり印刷会社を潤すとは思えない。


 思えば、電波が空中を飛びかうことだけで、お金の決済までができる時代というのは、印刷会社にとっては本当に厳しい。印刷会社は紙という物理的実体の加工をめしのタネにしてきたわけで、存在の根本を否定されたようなものだ。情報の伝達に紙という媒体が必要なくなりつつある今、印刷会社の生きる道はないのだろうか。実はICカードそのものに生きる道があった。


 実は、こうしたICカードのベンダーというのは、主に印刷会社なのだ。プリペイドカードの時代から、着々とこうした時代を見越して新時代の印刷会社のあり方を探ってきた印刷会社があるということなのだ。もちろん、こんなことができるのは超大手の印刷会社であるが、我々中小も学ばなければならないところはある。


 中小印刷会社は今ある技術を利用しようというところに傾きがちだ。オフセット印刷機があるからオフセット印刷の仕事をとろう、製版機があるから製版の仕事をとろうとする。そのことが極端な価格競争を引き起こしては自滅している。これは順番が逆なのだ。ニーズがあるから、生産するのであって、自社設備を有効活用するために生産するのではない。設備の有効活用という気持ちはわかるが、古い機材の活用にこだわっていたのでは、世の中の速い動きについていけない。それではICカードを作れない中小印刷会社は何を売るべきなのだろうか?


 ICカードで改札を通るとき、こんなことを考えつつ。



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