第11回 印刷通販に未来は|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第11回 印刷通販に未来は

 何年かぶりに我が社のホームページを改訂した。今までは私が中心になって書いたり、仕様をまとめたりしていたけれど、今回は社員にお任せ。当社ホームページも10年にして私の手を離れた。というより、今まで私が何でも抱え込みすぎていたのかもしれない。考えてみれば、私の頃にはニューメディアだったインターネットもいまやすっかりインフラである。インターネットがニューメディアだという私の感覚そのものが若い社員には旧態依然と写るようだ。


 今回、私も改訂の参考にとあちこちの印刷会社のホームページを見たのだが、シンプルな物からデザイン的に洗練されたものまで、本当にさまざまなものがある。そして、たまげたのは過激なまでに派手で、「激安」とか「格安」の文字のちらばる印刷通販サイトの多いことだ。印刷通販サイトは電子データをネットを通じて印刷会社に送るだけで、印刷ができあがってくるというサイトだ。名刺やハガキから始まったが、今やカラーチラシ、ポスターや小冊子のたぐいまで通販で取り扱うようになってきている。


 正直言って、ホームページに初期からたずさわってきたものにとって、このスーパーの安売りチラシのような騒々しいサイトは異様に写る。ホームページってそんなに売らんかなの姿勢で作るものだったのだろうか。会社の理想を語り、会社の存在を世に知らしめる。そんなものではなかったのか。もっともこんな感想をもつこと自体旧態依然の感覚のゆえんなのだろうが。


 印刷通販サイトは印刷営業の革命ではある。今まで、印刷の営業というのはIT化した印刷技術に比べてあまり変わることがなかった。活版のころも今もクライアントに足繁く通い、ご用聞きをしてまわる。どの商売でもそうだが、取引に当たっては個々の営業とクライアントの人間的つきあいのようなものが実際にものを言ってきた。ところが印刷通販にはこんな人間的つきあいなんてまるでないのだ。とにかく客はデータを用意して、見つけたサイトにデータをおくり、できあがった商品をうけとり、金をはらうだけだ。もちろん、インターネット通販の常として、メイルによるきめ細かいサポートなどは行っていることと思うが、その様相は一昔前の印刷営業とはまるで異なる。


 こんな営業が可能になったのも、クライアント側で昔で言う版下、今で言う完成データ(PDFなど)が作れるようになったからだろう。その昔、印刷の発注が手書き原稿で行われていた頃には、こんな単純な発注法はどだい無理な話だった。手書きの原稿は発注者の恣意のかたまりであって、これを印刷原稿におきかえるには営業がクライアントと密接に話し合うというかつきあう必要があったからだ。今、完成データまでできていれば、ページ数、部数、紙質などの客観情報さえあれば、印刷はできてしまう。


 これはこれで時代の要請だろう。しかしネット通販の怖いのは、同質の製品ならクライアントはいくつかのサイトを見た上で、一番安いサイトを選んで買うということだ。「価格コム」のようなネット通販の中でもっとも価格の安いところをさがしだすというサイトまである。いまのところ「価格コム」に印刷の項目はないようだが、似たサイトができるのは時間の問題だろう。となると、サイト間で価格競争がおこってしまうのは当然予想される。実証したわけではないが、その傾向はあるのではないか。これによって印刷の相場がこの競争価格に規定されてしまうようなことにならないか、気がもめるところだ。


 もちろん、この泥沼の価格勝負によるネット通販の悲劇はそれぞれのサイトの運営者も充分にご承知なようで、ネット通販の常道である独自商品の開発にも熱心だ。価格よりそちらに力を注いでいただきたいなどと他人事のように考えつつ、やはり通販サイトに参入すべきかとも思ったりするこのごろ。



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