先月も書いたように、当社ではウィンドウズDTPに踏み出したのだが、このなかで、プロジェクトウィンドウズと名付けた若手社員を集めた研究会がきわめておもしろいことになった。この研究会は、若手社員の勉強会として、ウィンドウズの知識を得てもらうのが主眼ではあったが、実際に使う社員自身にウィンドウズDTPを研究させ、使いたいソフトを自分たちで選ばせることをも狙った。ウィンドウズに舵を切るというような大きな方向性はトップが決めるにしても、どういうソフトを使い、どのように運用するかは社員、それも若手にある程度まかせてしまおうと思ったのだ。
ウィンドウズ以前はこんなやり方はしなかった。電算写植でも、マッキントッシュでも、どんな機械をいれ、どんなソフトを使うかは、社長の鶴の一声で決まっていた。印刷会社にあって機械の導入とは元来そういうものだったし、誰も疑いをもってこなかった。しかし、進歩の速いコンピュータの世界では、経営者はもはやコンピュータのハード、ソフトの変化を完全にはフォローできないし、最近の若い社員の自主性と研究熱心さをみていると、社員の自主決定方式の方が有効ではと思えたのだ。
具体的には、月に1回、各部署からあつまった社員が、研究、討議しあう。これがすごい熱気である。このプロジェクトウィンドウズでは、地位は関係ない。役員も、課長も、係長も、新入社員も共通の土俵で、質疑応答、討議を重ねる。大学のゼミという感じだ。最初は、簡単なDTP理論、フォント理論からはじまり、段々、高度になっていき、やがて、各社のソフトを俎上に、機能を評価するという段階にいたった。
この各ソフト評価では、それぞれの社員ごとに好みのソフトが当然できてくる。往々にしてそれは一致しない。それで討論ということになるのだが、他の社員の前で特定のソフトを推薦するには、その利点をのべ、欠点を弁護せねばならない。討論に勝つにはある程度のコンピュータや組み版の知識がいるわけで、社員それぞれの基礎知識は大いに鍛えられたようだ。
またそれ以外にプロジェクトのメンバーが、各社のウィンドウズDTPシステムの展示会とかセミナーとかにでかけていき、徹底的に質問してきた。各社のプレゼンテーション担当者はあまりの質問のすごさに目を白黒させたらしい。プロジェクトウィンドウズで、その報告会をやるのだが、たいてい、批判の嵐ということになる。熱心に対応してくれた各社のプレゼンテーション担当者のみなさんには悪いが、この報告会はものすごくおもしろかった。中西のプロジェクトウィンドウズメンバーのお眼鏡にかなうソフトはひとつもないのではと思えたぐらいだ。
1年をすぎるころには、助言しようと聞いていた私が、あまりの高度な内容についていけなくなってしまった。少なくとも知識をつけてもらうという意味では試みは大成功だった。やはり、若い社員はこういう自主的なやり方にこそ飢えていたのだ。当たり前だ。今の若者は小学校のころから大教室で一方的に教師から知識を流しこまれるというより、班を作って討論をしたり、教室の前にでて調べてきたことを話したり、という自主性を重んじる教育を受けてきた世代なのだ。彼らには、こうした自主活動こそが自然なのであって、トップダウンの方が違和感を感じていたのだろう。
いずれにしても、いまウィンドウズDTPがこうした自主活動型で学んだ社員によって実際に動き始めた。昔のようにトップダウンでものを聞く連中ではないから、いささか扱いにくいともいえるけれども、つぼにはまれば力を発揮してくると思う。これからがおもしろいぞ。