第143回 無線LANの時代|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第143回 無線LANの時代

 元祖モバイラ-を自他共に認める私にとって、電話線だけではもう物足りない。LANポートが必需品だ。なにせ、電子メイルですら文字情報だけでなく重たい画像や動画の飛び交うご時世なのだ。高速LANなくしては電子メイルもままならない。よくしたもので、最近ではLANポートつきのホテルを探すのに苦労はしない。ホテルでLANにつなげて高速インターネットを使えれば、家や会社とかわらない通信環境が旅先でも手に入る。ホテルについたらそこがオフィス。いい時代になったものだ。


 そして、この上さらに無線LANがやってきた。実はホテルのLANが有線から無線にかわりつつある。これは海外の方が普及が早いようで、一番最初に無線LANホテルにでくわしたのがドルッパで行ったドイツだった。しかしそのときの無線LANの印象は最悪だった。設定が難しくてなかなかうまくつながらず、マニュアルも英語しかなくてお手上げだったからだ。なんで、こんなややこしいものをつけるんだ、有線LANにしておいてくればいいものをと一人ドイツのホテルで毒づいていた。


 その後、こちらも無線LANについては一通り苦労してみて、ようやっと無線LANの凄みがわかってきた。設定さえ間違えなければあっさりと裸のノートパソコンが世界とつながってしまうという感じなのだ。ノートパソコン以外、何の機器もいらない。ホテルにしても、全室に無線LANをひくよりホテル全体を無線LANでつつみこんでしまった方が安上がりだ。無線LANの基地となる装置を各階に置くだけで良い。有線の設備はこの無線LANの基地までで、あとの各部屋へは無線でつなぐ。各部屋への有線LAN工事がいらないから、有線LANの設備などつけようにもつけられない古いホテルこそこの方法は有効である。これは一気に流行るとみた。


 無線LANの威力を思い知ったのは、ホテルのコーヒーショップで本当にあっさり高速インターネットが使えてしまったことだ。それはまさしくあっさりとだった。ノートパソコンをコーヒーショップのテーブルの上で開くだけで、世界中の情報と高速インターネットを通じてつながってしまったのだ。


 無線LANの適用はなにもホテルに限ったことではない。応用範囲はきわめて広い。大学の構内すべてに無線LANをとばしておけば、学生や教員はどこにいても高速インターネットが使える。食堂であろうが、教室内であろうが、他人の研究室であろうが、噴水の傍らであろうが、高速のネット環境が手にはいる。会社や役所でもいくらでも応用が考えられるだろう。しかも、これは基本的にLANだからインターネットにつながるだけでなく、構内でしか使えない情報も流せる。さらに公衆無線LANの時代ともなれば、街角のあらゆるところで、そして、電車の中、飛行機の中でも使えるようになるだろう。


 「どこでもドア」ならぬ、「どこでもインターネット」である。実はそうなったとき情報を伝達するという意味での印刷物の価値はとことん低下する。単に情報を伝えるだけなら、無線LANを使えばどこからでもどんな情報でも手にはいってしまうからだ。インターネットの時代になって、情報伝達手段としての印刷物の価値はどんどん下がっていったわけだが、まだ「大きな機械と有線」という物理媒体が必要だった。もしくは携帯電話の小さな画面で我慢するしかなかった。普通の本はコードをひっぱらなくても読めるという点で紙の本にもそれなりの意味があった。コードなしでも総ての情報が読めるとき、印刷物は終わる。無線LANの時代とは情報伝達革命の最終段階ということなのだろう。


 かくなる上は情報を伝達するだけの印刷ではなく、情報を伝達する以上の価値を如何に付加するかが印刷のサバイバルがかかっている。要は無線LANと画面なんかに負けてる程度の印刷は残れないって事だ。



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