さて、印刷ネット通販挑戦記はまだまだ続く。前回は、一応通販のページは作ったものの客がこない。そこで検索エンジンに検索連動型広告をだしてみることにしたというところまでだった。結果はどうだったか。
「印刷」という直接的な言葉は確かによく検索される。しかし「印刷」をキーワードに掲げるライバルもまたあまりに多いのだ。そしてこうなったときものを言うのはずばりお金。キーワード掲載順位オークションで高い金をはらった企業が上位に掲載される。これではあまり高額になるとついていけないし、お金をだして上位掲載されたとしてもそれだけでクリックを稼げるわけでもない。ここからさらに「格安」とか「激安」といった低価格に関連するキーワードが投入できるかどうかという壁があるのだった。ネット通販に期待されているのはやはり低価格。ネット通販業界最大の悩みと言われる「価格だけが勝負」が印刷の世界でもやはり真実なのだ。これは苦しい。他社を出し抜くには、広告費をかけてさらに低価格表示で勝負ということになってしまう。
当社、この世界は早々に退散することにした。正直つきあいきれない。ネット通販そのものをやめるわけではない。広告費をかけて薄利多売というネット通販の王道からはずれ、それ以外のネット通販の道もあるはずと考えたわけだ。
キーワードのクリック数分析をやってみておもしろいことがわかった。キーワードには当社印刷通販サイトに頻出する単語、たとえば「オフセット印刷」とか「オンデマンド印刷」、または「PDF原稿」とか「データ入稿」というような言葉を登録しておいたのだが、こうした単語はあまり検索されていない。逆に、「報告書」とか「句集」とか言うような具体的な製品をあらわす単語にヒットが多い。なあるほど。
この事実は通販チーム全体も目を開かされた。この結果からみる限り、お客さんは「オフセット印刷」をしたいわけではないのだ。「報告書」を作りたいのだ。「報告書」を作る方法が、「オフセット印刷」であろうと「オンデマンド印刷」であろうと関係ない。まして、自分の原稿が「データ入稿」にあたるのか「PDF原稿」にあたるのかも意識していない。結局、われわれの印刷通販サイトを作る根本が間違っていたことになる。われわれは「オフセット印刷」をしたいお客さんが業者を探すというあり方を考えていたのだが、お客さんは「報告書」を作れる業者を探していたわけだ。印刷技法など二の次なのだ。もちろん、「印刷」や「オフセット」でもヒットはするが、そういう場合には上に「激安」とか「格安」とかがついていなければならない。
印刷会社はいままで発注のプロとつきあってきた。クライアント自身がある程度印刷技法とか入稿方法に詳しく、こちらは印刷会社に徹していればよかった。クライアントは詳しい印刷仕様を並べてくるからその通り「印刷」してやればいいのだ。逆に言うと、印刷会社が受注したとしてもそれが「報告書」なのか「句集」なのかはあまり意識していなかった。あくまでも何頁で何部という「印刷物」を作ってきたにすぎないのだ。ある意味それをつきつめたのがネット通販サイトともいえる。
ネット通販はWEBページそのものに営業の役割を負わせる。この営業は24時間365日働き続け、場所もいとわず全国からお客さんを探してくるという今のご時世には考えられない働き者だ。しかし、このネット通販サイトという営業はお客さんのニーズにきめこまやかに応えるのはちょっと不得意だ。だからこそ、こまやかなニーズよりも一定の仕様でフライヤーとかを大量に受注するという方向性にすすみ、はては「激安」「格安」の競い合いとなってしまった。
エンドコンシューマーの求める細やかなニーズに応えられるネット通販サイトというコンセプトが見えてきたわけだが、そんなものがはたして実現可能なのかは次の問題ではある。まだまだネット通販の道は険しい。