第31回 LANは楽し|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第31回 LANは楽し

「専務、大変なことになりました」


 と、電算担当の若い社員が飛んできた。彼はここ2・3日会社中のコンピュータをLANで接続するという作業をしていた。やれやれ、今度はなんだ。


「何をやらかしたんだ。ハードディスクでもこわしたか。それとも、CPUが暴走したか」


「違います。WINDOWSマシンから、電算写植が使えちゃうんです」


 私は、その意味するところを把握するのに手間取った。いったいどういうことだ。私も実際に見せられるまではまさかそんなことが出来るとは到底思えなかった。


 しかし、彼の指し示したパソコンの画面の中には見慣れた電算写植システムのオープニング画面が写っており、事実、ファイルの操作ができてしまっているのだ。これは、大変なことである。電算写植のシステムは高度なUNIXワークステーションを使用して、ソフトもあわせれば、1台数百万円から1千万円というレベルの機械だ。これが街の安売屋でたたき売られている20万円のパソコンで使えてしまうのだ。接続ソフトはOS(この場合、WINDOWS95)付属の物で充分で、特別な物はなにもいらないという。


 こういうことだった。件の彼は、事務や研究用のWINDOWSマシンをLAN接続していた。パソコン同士のデータのやりとりをフロッピーでなく電線を通じてやるためだ。ここで、ちょっといたずら心をおこして、電算写植システムのLANとこのWINDOWSのLANを接続してみたというのである。うまくいけば、すべてのシステム間でフロッピーを介さずに、直接データやりとりができる程度の軽い気持ちだったらしい。設定には苦労したらしいが、電算写植のLANもWINDOWSのLANもイーサネットという同じ形式なので、あっさりつながってしまった。そこで、もしやと思って、WINDOWSマシンから、電算写植システムをよびだしてみた。するとすんなりはいれてしまったというのだ。これが、オープンシステムのすごさだろう。規格が揃っていさえすれば、どのメーカーのどんな機械の組み合わせでも使えてしまう。 


 断って置くが、できるのはシステムにはいってファイルをハンドリングするところまでである。実際にファイルをオープンして、編集作業をおこなったりすることはできない。そこからは、専用システムの専用システムたる所以で、さまざまな特殊な処理がしてあるし、プロテクトだってかかっている。もちろん、ソフトのライセンスの問題もある。だが、彼は続けて言うのだ。


「でも、これシステム解析して、うまくソフトを移植すれば、別にワークステーションでなくても、パソコンで充分使えますよ」


 それはそうだろう。今のパソコンの性能はとうに数年前のワークステーションのレベルを越えているからだ。数年前のシステムとして使うつもりならパソコンで十分だろう。


 それにしても、LANの威力はすさまじい。簡単に電線でつないでいくだけなのに、異機種のコンピュータであろうが、なんであろうが、いとも簡単に情報がやりとりできる。それどころか、他所のコンピュータが自分のもののように使える。


 若い連中が、こんな面白いことをほっておくわけがない。私の知らない間に会社中にLANのケーブルがどんどん張られている。隣の部屋へデータを送るのもFTP(インターネットなどで使われるデータやりとりのための規格)を使ってやるんだそうだ。うーむ。いよいよ社内でも情報セキュリティの問題を真剣に考えねば。



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