第88回 新旧オンデマンド印刷|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第88回 新旧オンデマンド印刷

 オンデマンド印刷機というものをはじめて見たのは、10年前のシカゴPRINT'91だった。蛇足だが、10年後のシカゴPRINT'2001はニューヨークテロ事件の余波で、帰国できない人が続出し、話題になったのは記憶に新しい。当時、オンデマンド印刷機はすぐにでも普及するような言われ方をしたものだ。実際、1991年というとバブル崩壊後ではあったが、10年も不景気が続くとは誰も思っていなかった頃で、その後しばらくは、「先進的印刷会社」のあちこちでオンデマンド印刷機導入という声を聞いた。


 その後もオンデマンド印刷機は、欧米では着実な成長を続けているという。日本はどうだろうか。はっきりとした統計はわからないのだが、期待したほどではないと言うのが正直なところではないか。なぜか、理由は大きく2つあると思う。


 1つは、オンデマンド印刷機というやつが、デジタル技術の塊と言うことだ。コンピュータからの出力がそのまま印刷されるわけだから、文字組から、図表、写真にいたるまでデジタル化されていなければならない。CTPでも同じ事がいえるのだが、オンデマンド印刷機の場合、印刷そのものがコンピュータと直結している点で、よりデジタル化の要求は厳しいとも言える。これが、日本ではなかなか実現していない。オンデマンド印刷機は、印刷機という名前に幻惑されやすいが、実態はコンピュータプリンタそのものである。だから、ノウハウとしては印刷機よりも、コンピュータに近い。これを「印刷」会社が導入すると、なかなかうまく動かないのだ。


 もう1つは、より根元的な問題だと思うのだが、日本では従来から印刷はオンデマンドなのである。オンデマンド印刷とデジタル印刷を私自身、混同して使っているようなところもあるが、もともと「オンデマンド」とは"On Demand"で「要求があり次第」というような意味にすぎない。デジタルの意味ではない。字義通り「要求があり次第」の印刷ということなら、コンピュータを駆使したデジタル印刷機でなくても、従来のオフセットでも可能なのだ。日本では、50部というようなごく少部数印刷や、夕方入稿、翌朝納品なんて超短納期印刷もオフセットでやってしまう。それも、アメリカでは常識の追加料金なしでだ。これを「社長徹夜式オンデマンド印刷」と命名したい。零細企業の社長は仕事さえあれば、ごく少部数での徹夜も厭わない。世が不景気だからなおさらだ。これでは、わざわざデジタル式オンデマンド印刷にする必然性がない。オンデマンド印刷機が売れないのも当然なのだ。


 ただ、「社長徹夜式オンデマンド印刷」には、絶対真似のできないことがデジタルオンデマンド印刷では可能だ。例えば、バリアブル印刷。1枚1枚違う物を刷ってしまうと言う印刷だ。こうなっては印刷とはいえないかもしれないが、従来のオフセットとはまったく違うことができるという強みで、利用法次第では、新たな市場の創出も期待できる。 しかし、それよりなにより、「社長徹夜式オンデマンド印刷」は限界がある。社長の1日は24時間しかないし、いくらなんでも、徹夜を2日3日とは続けられないということだ。デジタルオンデマンドにも機械の限界はあるが、機械は工夫次第では24時間、毎日でも動いてくれる。特にコンピュータ技術の塊であるデジタルオンデマンド印刷機は、プログラムをセッテイングしておくだけで、複数の仕事を無人で終夜自動的に動かすことも可能になるだろう。


 若旦那世代としてはコンピュータを駆使して「社長徹夜式オンデマンド印刷」の壁をうちやぶりたい。そうでなければ、「社長徹夜式オンデマンド印刷」どころか「社員総出で徹夜式オンデマンド印刷」が、まかり通ることにもなりかねないのだから。



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