145回目にして、このコラム改名いたしました。改名箇所は2カ所。
まずは、「京都の若旦那」から、「京都の元・若旦那」に。連載を始めたときには38歳だった私も、144回丸12年もやると、50歳となってしまった。さすがに50歳で若旦那を名乗るのは気恥ずかしいし、かといって今のところ「旦那」ではないので、中途半端だが「元・若旦那」。編集長の中村幹さんと「若旦那」の名称変更について、色々考えたのだが、なかなかいいアイデアを思いつかなかった。少し生煮えの感はあるが、しばらくこれでおつきあいください。
もうひとつは「コンピュータ奮闘記」から「IT奮闘記」へ変えたことだ。「コンピュータ」といえば会計用語で言うと装置・器具・備品にあたる。要するにモノのことである。このモノをいかに使いこなすか、このモノの導入で印刷屋になにがおこったかということを書き続けてきてここにいたったのだが、現在の印刷屋ではコンピュータは生産するための装置というだけではない。典型的なのがインターネットを通じた原稿のやりとりや校正の送付。ここではコンピュータは生産ではなくて、通信機器である。そして、製品としてのインターネットコンテンツを扱うとき、コンピュータというモノはずっと背景にさがってしまい、見えているのはコンテンツとソフトウェアだけである。このコラムのネタ自身も、キーボードと専用ディスプレイを備えた典型的なコンピュータの話題だけではなく、情報化社会(とそれにまつわる印刷)そのものに関する話題が増えている。
コンピュータはもはや社会のインフラとして当たり前の存在となった。そして最近はコンピュータはコンピュータの形をしていない。様々に形態をかえつつ、社会の隅々まではいりこんでいる。実際、インターネットのできるテレビとか、本そのものに貼る電子タグとか、みのまわりにはコンピュータが形をかえた情報機器があふれている。そうした情報技術の総体を今はIT(Information Technology)という。だから新しい題名はコンピュータからITへと変えた。今後このコラムも、印刷をめぐるコンピュータという道具の話から、印刷をめぐるITそのものの話題へと展開していくというか、もう展開しちゃっているので、改名したというわけである。
そういえば、昔よくお世話になったパソコン雑誌というものもすっかり減ってしまった。長年、愛読していた「朝日パソコン」が使命を終えたとして休刊してしまったし、かのパソコン雑誌の草分けにして雄「ASCII」もいつのまにかパソコン誌からITを中心としたビジネス誌に変わってしまっている。道具としてのパソコンはもはや、雑誌の対象にすらなっていない。ひとつにはパソコン雑誌を読むような層が、情報収集の第一にインターネットをつかうようになったということがあるだろう。しかし、真の理由はパソコンというモノの話題だけでは読者をつかめなくなったということだろう。パソコンが動くのは、もはや当たり前。その上に何を築くのかが問われている。
印刷屋もコンピュータを使うのは当たり前。その上で、どうやってIT社会に居場所を見つけるかがこれからの印刷業の課題なのだ。もちろん、徹底して紙にこだわり、ITとは別のところに自分の会社を置いてしまうというのもひとつのあり方だろうとは思う。だけれど、インターネットと真っ正面に競合しているほとんどの印刷会社はIT社会の中で何ができるかを模索し続けねばならない。
「IT印刷屋」こそ、これからの生きる道ということか。しかし、「IT印刷屋」という言葉に手垢のついた印象があるのはなぜだろう。「IT奮闘記」には手垢のつかないようがんばらないと。