第60回 イギリス、オンラインジャーナル紀行|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第60回 イギリス、オンラインジャーナル紀行

 このコラムで、今年のはじめに欧米ではとんでもないことがおこっている書いた。オンラインジャーナルである。雑誌の内容すべてをインターネットのホームページで流してしまうものだ。検索が自由で速報性にすぐれているというが、印刷屋にとっては悪夢である。紙を使わないのだから、印刷屋としては腕のふるいようがないではないか。


 このオンラインジャーナルという大波はいったいいつごろ日本に来るのかと思っていたら、あっというまにやってきた。英文学術雑誌を発行している当社のクライアントが軒並みオンライン化を依頼してきたのだ。世界に向けて情報発信する英文雑誌の文献検索は、すでにインターネットでするのがあたりまえになっている。もはやインターネットに載っていなければ、文献検索の網にひっかからない。つまりは、雑誌を発行していないのと同じことになってしまうのだ。これでは、国内のクライアントもあせるはずだ。


 さて、イギリスである。このとんでもない大変革のうねりの中、当社では、イギリスからの技術導入をはかることにした。英文雑誌のオンラインジャーナルでは、当然のことながら英語圏である英米がはるかに先をすすんでいる。オンラインジャーナルの製作方法、ハイパーリンクの設定などなど、日本ではどうやってもおいつけそうにもないレベルだ。これはもうオンラインジャーナルの本場へのりこんで覚えてくるしかないではないか。


 ここで誰がいくかだ。現場の社員に声をかけた。最初は「行きます!」と威勢がいいのだが、英語という現実の壁にみんな尻込みをはじめる。英語の雑誌を作っているとはいっても、英語を聞けたり話せたりするわけではない。日本の英語教育のひずみがこんなところにもあらわれた・・なんて言っている場合ではない。


 結局、私が提携の交渉もかねてイギリスに行くことになった。めざす出版社はロンドンから列車で1時間ほどの大学町にある。日本をでてから16時間。到着後、提携に関しての打ち合わせをしたあと、制作現場に案内された。はたしてオンラインジャーナルとはどんな作り方をされているのか。日本で欧米の先端のオンラインジャーナルを調べたとき、そのあまりの高機能と使いやすさに舌を巻いた。こんなものを作るとすればどれだけ手間暇と金がかかるか見当もつかない。しかも、紙の雑誌も同時に作るのである。紙版とオンライン版の二度手間を考えれば従来のやり方では到底ひきあわないはずだ。


 居並ぶコンピュータは日本の組版現場とまったくかわらない。その部屋はより広くてきれいではあったけれど、使っているのは何の変哲もないWindowsマシンである。ただ、ソフトが違った。やっていることが違った。


 ページレイアウトはそんなに重要視されていない。それでは組版現場で何をやっていたかというと、文書の構造化である。オペレーター作業のほとんどが、文書の構造化についやされていた。文書を構造化することで、オンライン版と紙版を効率的に作成することを可能にするわけだ。オンライン版の本質は文書の構造化にあったのだ。今までは、紙の上での読みやすさを追求していればよかった組版だが、今後はオンラインジャーナルへの展開ということも考慮にいれねばならなくなる。どうやら21世紀の組版は根底から変わってしまいそうだ。この技法を日本にもちこむわけだが、いったいどういうことになりますやら。


 ところで、この連載も第60回。まる5年書き続けたことになる。今回の話題なんて、連載が始まった5年前にはちょっと考えられなかった。今後、21世紀に向かって印刷はどこまで行くのか。また来年からもおつきあいください。



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