第95回 OpenTypeがやってくる|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第95回 OpenTypeがやってくる

「落札してしまったんだから、なんとかしてください」 営業が泣きついてきた。入札仕様書の書体指定を丁寧に読まずに落札してしまったらしいのだ。


 仕様書にはうちでは所有していないPostscript書体が指定してあったのだ。もし高解像度で揃えるとしたら200万円。うわっ、落札価格より高いじゃないか。今後他にも広く使える書体ならまだしも、このクライアントの仕事にしか使えないのなら、元を取ろうとしたら何年かかることか。


「TrueTypeの似た書体でいいじゃないの。入札のときは、「もしくは同等の物」って文言が普通ついてるだろう」


「だめなんですよ。妙に書体に詳しいデザイナーがついているらしくて、入札条件を守れと厳しく言ってるんです」


 デザイナーは珍しい書体を知っていることが勲章であるとでも思っているのか、昔からなんの遠慮もなく変な書体を指定したがる。ところが、フォントというのは、一昔前、とてつもなく高い買い物だった。電算写植の一書体ン百万円というのもめずらしくなかったし、DTP時代になっても、高解像度と名の付くPostscriptフォントはあいかわらず高価で、ちょっと、見積もりをとってみるとやはり百万円をこえた。


 そこへ激安TrueType革命がやってきたわけだ。日本語30書体、50書体まとめて1万円以下という値段で売られようになった。なんと、1書体価格にしてみると、電算写植書体の1万分の1なのである。最初の頃は書体の質が悪いとか、ジャギーがでるとか、さんざんな言われ方をしたものだが、あっというまに改善した。DTPプラットホームのWindows化ともあわせ、WIN600TT(Windoes 600dpi TrueType)革命と呼んだものだ。しかし、ここまで来ても、あいかわらず、デザイナーは電算写植書体やPostscript書体にこだわってくる。その上に、なんの恨みがあるのか、デザイナーは入札条件にまでこうした書体指定をつけたがる。


「なんか、方法ないの?いまさら高解像度フォントなんて買わないぞ」


 会社中に檄をとばした結果、若いチームからある提案がでてきた。


「OpenTypeでどうです」


「OpenType?」


結果、OpenTypeを使うことにしたのだった。OpenTypeは私の理解するところ、TrueTypeとPostscriptをたして2で割ったようなものであるらしい。TrueTypeのようにマシン側に書体を搭載しながら、平気に高解像度のセッターやCTPに出力できるのだ。しかも、価格は数書体まとめても10万円ぐらいでしかない。OpenTypeなるものがあるという話は聞いていたが、現実に役に立つというのは、初めてだ。


 まだあまり対応しているソフトがないのが、やっかいだったが、PDFを使ってなんとか、指定の書体を出力することができた。くだんのデザイナーはPostscriptを指定したつもりなのだろうが、OpenTypeでも 書体名はあってるわけだから入札条件には違反しない。だいたい、同じ名前なのだから基本的に同じ物だ。これはいいぞ。


 もちろん、価格だけではなく、OpenTypeには、今までのフォントにはない機能がてんこもりである。そうした機能を使いこめるソフトがないためにまだ印象の薄いOpenTypeだが、これはフォントにTrueType以上の革命的な変化をもたらす。これからまだまだ、DTPは面白いぞ。



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