第50回 インターネット雑誌|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第50回 インターネット雑誌

 インターネットについての話題は久々である。私なんかはもうインターネットなしでは1日も暮らせないのだが、去年一年間はこのコラムで、一回もインターネットについて書いていない。これは、インターネットが当たり前の光景になってしまって、すくなくとも、日本のインターネットについてとりたてて書くほどのことがなかったからだ。それに、いまのところ、インターネットというやつ、多くの人にとって使わなくても別に困らないし、使ったとしても携帯電話のように、一度使ったら離せないというものでもない。一度使ってみたけれど、表示が遅いし、入っている情報がそれほどでもないということで、使わなくなった人も多いと思う。結局、その程度のものだったのだろうか。


 いやいやインターネットの実力をみくびってはいけない。海の向こうでは大変なことがおこっている。すでにアメリカの大手雑誌出版社がインターネット配信を主体にして、印刷物の配布をやめるとかいうような話が聞こえてくる。これはいったいどういうことだろう。あちらではペーパーレス社会という印刷会社の悪夢が現実感をもって語られている。日本でも確かにこういうことを言って、衆目を集めようとした馬鹿な評論家もいた。しかし、結局、そんな雑誌は一誌もない。実験的なインターネットマガジンはあるが、商業ベースにのっているものなどない。なのにアメリカではなにがおこっているのだ。


「これを見てみなさいよ」


と、ある雑誌の編集長に言われて、http://highwire.stanford.eduを見て、腰を抜かした。


 何が、あったか。雑誌それも学術雑誌の全文のインターネットでの流通である。それも、一誌や二誌ではない。全文公開されている雑誌名がズラズラ並んでいる。目次や要約程度なら、日本でもインターネットによく載せられている。うち(中西印刷)でも、雑誌の発行より先に、目次と要約をインターネットのホームページに載っけるというサービスをやっていて、「さすがに中西印刷さんは進んでいらっしゃる」などと言われて、得意になっていたものだ。だが、そんなレベルじゃない。


 単に全文というだけではない。すぐ読みたい人にはHTML、雑誌体裁で読みたい人にはPDFとふたつのファイル形式が選択できる。写真や図は、ちいさいサムネイル表示になっているが、クリックすれば、2段階で大きくなる。そして一番ものすごいのが、縦横に貼り巡らされたハイパーリンクだ。参考文献にあがっている論文をクリックするだけで、元の論文(もちろん全文)にすぐ跳んでいける。これはインターネットの原点だ。


 ここで疑問が出る。全文を載せてしまえば、元の紙の雑誌を買う人がいなくなるではないか。この問題はどうする気だろう。どうやら、アメリカではすでに紙の本を売ることにこだわっていないらしい。普通、学術誌というのは会員制で、1年分なりの会費を払えば、その分の雑誌を送ってくるという仕組みになっている。ところが、こうした雑誌では、この会員設定に「ワイヤー会員」というのがある。ワイヤーとはつまり電線。紙の雑誌はいらないが、インターネットで読むだけの会員というのが制度的にできている。こうした会員制をとる雑誌では、インターネットでは目次や要約までは只で読めるが、全文は会員番号やパスワードをいれないと読めない仕組みになっている。つまり実験段階でもなんでもなく、すでに完全な実用段階となっている。


 どうやら、日本はインターネットに関しては西欧世界からは、もはや一周遅れらしい。



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