第75回 家庭にトータルスキャナ|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第75回 家庭にトータルスキャナ

 早いもので、うちの2人の息子も、小学1年生と幼稚園の年中組という年齢になった。仲がよいのか、悪いのか、2人で走り回ってふざけあっていたかと思うと、突然ギャーギャー喧嘩をはじめる。いつものことだとほっておいたら、なかなか喧嘩がおさまらない。それどころか、おにいちゃんの方が泣き出して、私のところに訴えに来た。


 「まーちゃん(弟の方)が、大事なスターウォーズの絵本を破った」というのである。


 見ると、どうやら2人で絵本の取り合いをしたらしく、アナキンスカイウォーカー(スターウォーズの少年ヒーロー)の顔のど真ん中で、絵本が破れている。折り込みの折目にあたるところで、もともと弱かったのだろう。


 お兄ちゃんは、「元の通りに直して」といって、弟を前に一歩もゆずらない。弟は取り合いしての結果だから、自分のせいではないと、お兄ちゃんに理不尽にいじめられた風を装って、ママにくっついて泣いている。子供がいる限りおこりがちな修羅場。


 今までなら、ここはセロテープで貼りあわせ、2人を納得させて終わりである。


 しかし、今はパソコンというものがある。もしかしたらペイントソフトを使えば修正できるのではないかな。


 「アナキンもってきてごらん」


 と、お兄ちゃんにいうと、すぐに破れた絵本をもってきた。


 さしだされたスターウォーズのヒーロー、アナキンスカイウォーカーをスキャナで取り込む。ペイントソフトの画面でみると、耳から口にかけて斜めに一刀両断。


 まず単純につなげてみたが、これは不自然。折り目のところが、破れる以前からかなり損傷していて、白く抜けてしまっている。単純につなげたのでは、顔の面積が減ってしまって、目の形なんかがいびつになる。元の形に復元するには、折り目の部分で欠損したところを埋めなければならない。


 ならばと、印刷屋の血が騒ぐ。まずは近くの皮膚の画像をコピーして折り目で欠損した部分に貼る。皮膚移植ですな。それ以外のたとえば帽子の部分は帽子のところをコピーして貼るということをくりかえす。この方法でうまくいかない目の部分なんかは大きく拡大して、似たあたりの色をスポイト機能ですいとり、描画ツールで描き込んでいく。最後に、画像と画像の色の境界の不自然なところをにじませて馴染ませると、おお完成である。子供達は大喜びでカラープリンタから吐き出されるアナキンスカイウォーカーに大満足だ。もちろん、機材が機材だし、ソフトも何かのおまけについてきたやつだから、よくみると傷の修復がわかるが、子供には充分だし、大人でもまず気がつかないだろう。


 しかしこの画像修正って、やってることは一昔前のトータルスキャナそのものではないか。写真から不要な電線が自然な感じに消せるという話を初めて聞いたのは、何年前だったろう。10年はたっていないのではないか。5年前だって、まだトータルスキャナを使っての画像訂正なんていうと天文学的な価格になるといわれて、躊躇したものだ。それがご家庭のパソコンでできる時代になったわけだからなあ。


 パソコンでは精度は確かに荒かろうが、ソフトだって、5万円だせば、かなり本格的なものが手に入るし、一般のデジカメが300万画素を誇り、パソコンのクロックが1GHzにまでいたってしまった現在、ご家庭のパソコンが完全なトータルスキャナに化けるまでもう一歩だろう。各家庭にトータルスキャナがばらまかれ、素人修正画像がどんどん入稿されてくる時代、それはそれで恐ろしいことになるような気がするが、避けられまい。なんせ、パパの修正を見つめていた、子供達はもはやアナキンなどそっちのけで、マウスを握って、コンピュータ画像処理ごっこに熱中しちゃっているんだから。



ページの先頭へ