第42回 WIN600TT|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第42回 WIN600TT

 WIN600TT。これはなにかわかります? 新型のオートバイか流行のAV機器、あるいは発売されたばかりのモバイルコンピュータ、どれもノー。実は最近の印刷業界を象徴する3つの言葉をつなげたものだ。白状すると私の造語。


 WINはWindows。いわずとしれたマイクロソフトの怪物OS。全世界を覆うパソコンの支配者そしてMACのライバルにして庇護者。これが印刷業界にとって意味を持つのは、DTP市場の勢力地図の変化だ。印刷業界ではDTPといえば、MACという時代が続いたけれど、昨年あたりからメジャーなDTPソフトが続々とWindowsに移植された。今年になってからはUNIX系のソフトも続々とWindowsに参入してきている。専門誌も創刊されたぐらいで、WindowsDTPは今年爆発しそうだ。


 600は600DPI。この数字は文字組版業者にとっては恨みの数字だった。PSフォントではこの解像度を境目に、低解像度用と高解像度用にわけられ、高解像度フォントは低解像度フォントに比べ値段が一桁高かったのだ。この高解像度のしばりに、どれだけ泣かされてきたことか。しかし、今や高解像度フォントは裸の王様。高解像度フォントとセッターを使わなくても、600DPIレーザープリンタで十分商売になることがわかってしまった。


 そして、TTはTrueType。これの登場でいまやフォントは只同然になってしまった。私が今使っているパソコンにも明朝・ゴシックは言うに及ばず、楷書、隷書からファンシー書体まで和文40書体がインストールされている。手動写植の時代のことを考えると夢のようだ。品質云々を言う向きもあるが、これも裸の王様といっていい。専用の写植書体でなければならないというほど、高品質なものをすべてのクライアントが求めている訳ではない。


 さてこの3つをつないだWIN600TTとはなんなのだろう。これは適正品質のための設備とでも言おうか。そして裏の意味といえば「只同然」だ。Windowsパソコンや600DPIレーザープリンタも事務機器としてなら値は張るが、一昔前の電算写植に比べれば只みたいなものだ。とにかくこの組み合わせで行けば圧倒的に安く組版設備ができてしまうことは間違いない。


 現実には印刷屋と名のつく会社がこの設備だけで居直って仕事するにはまだ勇気がいる。万が一「品質が悪い」というレッテルをはられてしまったら、困るからだ。しかも、クライアントが版下もちこみで作ってくる原稿はWIN600TTである場合が多くなっている。クライアントの持っているものと同じ設備で生産しているのでは「印刷会社」という看板が泣こうというものだ。しかし、そうした点をすべて認めるとしても、WIN600TTの誘惑はあまりに大きい。とにかくこれだけ設備が安いことはすべてを補ってあまりある。それに、WIN600TTはまだ始まったばかりだ。これから、まだまだ改善されていくだろう。あるいは、WIN1200TTとなっていくかもしれない。 どうも、これで紙の上の版下作成術は究極の形態をむかえたといってよさそうだ。もちろん、これで印刷会社がすべて幸せになれるかというと答えは否というしかない。今まで、電算写植の時も、MACDTPのときも、生産性が向上した以上に組版代が下がってしまったからだ。WIN600TTは究極の低価格設備だけに、これが普及してきたときには、印刷屋の価格競争がどこまでいくか想像もつかない。むろん、WIN600TTにすら、ついてこれない印刷会社はもはや論外ということになる。印刷業最後のサバイバルレースがはじまった。



ページの先頭へ