連載7年目。ついに21世紀に突入である。そして21世紀はITという言葉とともに始まりそうだ。もっとも、IT革命も我々印刷屋にしてみれば「いまさら」の感が強い。この連載そのものが、印刷屋のIT革命をお伝えしてきたわけで、印刷屋は時代より7年以上早かったことになる。ところが、時代より7年(いや、もっと前かもしれない)進んでいたばっかりに、対クライアントの前面にたつ営業は苦労しっぱなしだった。
7年前からCD-ROMだ、PDFだとクライアントに売り込みに行っては、「なにそれ?」と追い返され続けてきたのだ。あげくに、会社のシステムがフルデジタル化していたとしても、営業の態度としては、「私はコンピュータのことなんかわかりません」と言って、クライアントと共鳴するというのが正しいということになった。自社のコンピュータシステムの優位性について得々と話したところで、「小賢しい」と思われて、反発を買うだけで、仕事がとれないのである。これではお話にならない。
このコンピュータを前面におしださないというのは機材屋が印刷会社にコンピュータ関連の機器を売り込むときにおいてすらそうだった。印刷屋の社長というのは高齢の場合が多く、当然ながらコンピュータはいささか苦手という人の方が多い。こうした社長に、コンピュータについての詳しい技術的説明を延々とやったところで、辟易されるだけだ。結果として、機材屋の営業マンは同じく「私もコンピュータのことなんかわかりません。とにかくうちの製品なら間違いない」とやるのである。実は、私の前でも何をどう間違ったのか、これをやる営業マンがすくなくなかった。さすがに最近はここに連載していることなどが有名になってか、こういうことを面と向かっていわれることはすくなくなった。それでも、展示会などへ行くと、現場技術者でないと見るや、コンピュータのことをわざわざ触れないように「丁寧に」説明してくれたりする。
ところが、21世紀。やはり時代はかわりそうだ
コンピュータの言葉が、どこに言っても、普通に通じるようになってきたのである。「インターネットにXMLで、PSは圧縮してCTP」という言葉でクライアントと話ができるようになった。おそらく、欧米はこの状態に5年から10年早くなっていたのだと思う。最近、海外の会社とつきあうようになって、コンピュータマニアといえるような人が50代に多いということを知った。日本ではコンピュータを趣味としても、仕事としても熱中しているのは40代までである。おそらく、英語の世界では10年早くワープロが実用になり、10年早くDTPが実用になった。日本は漢字の障壁のためにそれが10年遅れたが、欧米ではコンピュータマニアになれる年代が10年早かったのだろう。
40代から50代、つまりこれは発注権限を握っている世代でもある。アメリカのIT革命はコンピュータを知った人々が発注権限をもった時点から爆発したのではないか。彼らは、コンピュータの言語で話せ、コンピュータの世界観で機器の発注ができた。
私の言いたいのはここだ。日本でも21世紀を迎えて、コンピュータの世界と言語のわかる世代が発注権限をもつ年齢に達した。かれらの前では、コンピュータがわからないふりをする必要もない。むしろ、コンピュータを知っていれば知っているほど共鳴しあえる。
時は至れり。今まで、いくらコンピュータ化、デジタル化を訴えても、今ひとつ会社の利益にはむすびつかないところがあった。コンピュータは単なる安い組版技法だとみなされ、印刷の価格低下の元凶ともされた。今度は違う。コンピュータを知る人間の方が、もはや多数派なのだ。コンピュータ化とデジタル化の真価をクライアント自身にわかってもらえるようになった。あとはロケットのように邁進するだけだ。