考えてみたら、印刷屋もとんでもない地平にまでいたってしまったものだとは思う。活版がなくなって、なんでもかんでもコンピュータという時代になったかと思うと、もうコンピュータを通じて世界との競争と共存の時代になっていた。
オンラインジャーナルについて、イギリスの会社と提携して3ケ月。日本語環境への移植に悪戦苦闘している中西印刷なのである。オンラインジャーナルというやつ、インターネットで雑誌を配布し、読む方も画面の上で読むというもの。それだけなら簡単なのだが、むずかしいのは、紙の本との両立である。紙の本を作らずに純粋にインターネットだけで情報を伝達するものには、インターネットマガジンとか、メイルマガジンなどがあるが、オンラインジャーナルは現状では紙の本も作る。というより、紙の本を検索やリンクの便のため、インターネットにも公開するといった方が正しい。
問題はここだ。オンライン版と紙版を別々に作るのでは、組版費用が倍になってしまうのである。これを無駄なく両立するために構造化組版とかSGMLとかいった新しい組版の考え方が必要になる。とりあえずはこの資料一式をイギリスからもちかえってきて、日本語のコンピュータ環境への移植を電算チームに依頼した。
マニュアルもプログラムも内容はすべて英語で書かれている。これは覚悟していた。しかし、日本のコンピュータではプログラムが一行たりとも走らないとまでは思っていなかった。組版ソフトひとつとってみても、日本語バージョンではイギリスのマクロが走らないのである。英語バージョンを使ってみると、少しはすすむがやはりうまくいかない。ねんのために、OSそのものを英語バージョンに、組版ソフトも英語バージョンにしてみると問題なく走る。どうやら、日本語OSに根本的な問題があるらしい。
英語OSで仕事すればいいという意見も出たが、実際に仕事をするオペレーターから、それでは困るという意見が強く出た。プルダウンメニューひとつとってみても英語だけではやりにくくてしょうがないというのだ。
結局のところ、ソースコードを一個づつ読んで、日本語OSでひっかかっている部分を同定し、回避のコードを書くという力任せの作業をやることとなった。これも単純に回避するだけではマクロの機能に障害がでてしまうから、それぞれのマクロやプログラムの機能と意味をイギリスにまで尋ねねばならない。
ここは電子メイルの独断場だった。イギリスとの時差は9時間。一日の試行ででてきた問題を質問のかたちで、夕方メイルしておくと、ちょうど向こうではその日の朝に受け取ることになる。検証して、添付ファイルつきで送り返してくれると、こちらでは翌朝に回答が読めることになり、時間の無駄がない。電子メイルでの国際通信教育である。そして次はイギリスから技術者が来日して、日本での試行を確認するというところまできた。
それにしても、最近の若い社員は、ことコンピュータと英語に関してはしごく優秀だ。こうしたやりとりもすべて英語ということになるが、コンピュータに詳しい社員。英語に詳しい社員。両方とも少しはわかる社員という3人の組み合わせでこうした国際通信教育をのりきった。
年輩の印刷業界人が、「最近の若い者は物を知らない」などとよくのたまうが、ことコンピュータと英語に関しては到底かなわないはずだ。やはり、時代がそういう人材を得るべく教育してきたわけだし、時代もそういう素養をこそ要求する時代になってきているということなのではないのだろうか。そう、今は2000年なのですね。