話題のブリタニカオンラインを紹介したい。インターネットのホームページから、あのエンサイクロペディアブリタニカ全情報にアクセスできるという代物だ。
私たちがこどもの頃、ちょっとお金持ちの、ちょっと教育熱心な家には、たいていエンサイクロペディアブリタニカがあった。全文英語の膨大な百科事典なんざ、小学生に与えても使いこなせるわけはないのだが、言葉たくみなセールスマンが日本中で国際化時代のお子さまの教育にとか言って売り歩いていたのだ。解約がむつかしく、プリタニカ商法なんて問題になっていたこともある。
商法云々はともかくとして、エンサイクロペディアブリタニカは世界の百科事典すべてのお手本になったぐらいで、その記述は権威そのものだった。世界中の作家が、ブリタニカを手元においていたというし、欧米の図書館にはかならずブリタニカ一揃えがあった。
そのブリタニカも最近はすっかり昔日のおもかげはなくなっていた。日本がそうであったように教養主義の崩壊や電子媒体の登場によって、欧米でも本の百科事典はすっかり売れなくなってしまっていたのだ。ブリタニカはCD-ROM版を売り出したりもしていたが、CD-ROMでは、結局のところ中途半端である。CD-ROM版ではマルチメディアの利用ができるとはいえ、盤という物理的な媒体が必要な点、それは本が形をかえたにすぎないのだ。インターネットのような外部とのリンクづけや、リアルタイムの情報更新ができないわけで、本版の弱点をそのままかかえこんでいるのである。
結局のところ、エンサイクロペディアブリタニカはインターネットに未来をみいだすことになった(http://www.eb.com/)。今、14日間無料おためしキャンペーンで中身を見ることができる。
内容は、これがすごい。ありとあらゆる情報が、検索キーをコンピュータに入力するだけで、どんどん表示されてくる。今回、この原稿を書くにあたっても、かなり調べさせていただいた。キーワード検索だけでなく、CD-ROMやインターネットでおなじみのハイパーリンクがあちこちに貼ってあるのも便利だ。そしてそのハイパーリンクはそのまま外へもつながって、ブリタニカと外部のホームページがシームレスに一体となっている。
しかし、今更、ブリタニカをインターネットに載せたって意味がないといわれるかもしれない。 確かに、インターネットはそれ自体が巨大な百科事典だとよくいわれている。Yahooなどの検索ソフトを使えば、インターネットからありとあらゆる情報をえることができる。その内容の多彩さはブリタニカの比ではない。ただ、インターネットのホームページというのは玉石混淆である。書いてあることが正しいかどうか、保証がないのである。しかも、調べる項目によっては、ひどく詳しすぎたり、そっけなかったりする。ブリタニカオンラインだったら、内容に権威もあるし、表記もバランスがとれている。
これだけの内容で14日間、無料である。正規に1年契約を結んでもたかだか50ドルである。この価格は戦略的な部分が多分にあるにしても、コストダウンの結果でもあるのだろう。「印刷雑誌」の読者には聞きたくないかもしれないが、印刷と製本が必要ないから、ここまでコストを下げることが可能になったのだ。
百科事典というやつ、確かに一から作ったり、改訂版を作ったりするには、すごい手間暇と時間がかかるが、いったん版ができればあとは刷るだけ。印刷屋と製本屋が必要部数する手間だけである。これがインターネット版だと当然ながら印刷と製本はゼロ。無論、紙もゼロ、流通コストもゼロ、輸送賃もゼロである。ただ、インターネット版でその便利さが知れ渡って、本版も売れ出したというのだが、さて、本版は息を吹き返すのか?