第118回 入力ルネッサンス|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第118回 入力ルネッサンス

 電算写植がはじまったころの原稿は当然のように手書きだった。そうした手書きばかりの原稿の中にフロッピーによる電子入稿がまじりだしたのは15年ほども前のことだろうか。著者の入力した原稿がそのまま印刷につながる。それはまさしく印刷工程の革命だったと言っていい。


 最初の頃は、さまざまなワープロ専用機のさまざまなフロッピーが持ち込まれ、その変換を専門とする部署が成立するぐらいフロッピー入稿は大事だった。文字化けや、データ欠落などの事故にも悩まされ、変換しても使えるのはプレーンテキスト(何も飾りのない文字)のみといい時代が長く続いた。それでも、だんだんとフロッピー入稿は工程として確立していく。ワードをはじめとしたパソコンワープロのデータの時代になると、プレーンテキストだけでなく、ある程度の文字飾りも有効に変換できるようになった。媒体もフロッピーからMOとなり、今、WEB投稿へと進化していく。


 そして、こうした電子入稿の増加に反比例して、原稿をよんで文字入力を行う入力部門から一人また一人と入力オペレーターがいなくなっていった。結婚退職者のあとを補充しなかったり、DTP組み版部門への転属などが繰り返され、年々、入力室は寂しくなっていった。このまま入力部門は自然消滅かと思われた矢先。昨年あたりから入力室から悲鳴が聞こえだしたのだ。


 「とってもこんな量の仕事はこなせません」


 「じゃあ、外注を使えよ」


 「外注に出せるような仕事じゃないんです」


 原因はいくつかあった。ひとつは例のオンラインジャーナルだ。PDFのオンラインジャーナルは組み版データをそのままPDFに変換するだけだが、HTMLのオンラインジャーナルはさまざまなタグやリンクのための記号を挿入しておかなければならない。この記号つけを著者にやっていただくのは絶対に無理な話なので、印刷会社側での作業とならざるをえない。入力部門ではなくDTP組み版部門で組み版しながらタグいれという作業もできなくはないが、基本的にタグつけは入力の一部として電算写植の昔から入力部門の作業として確立し、ワークフローが変えられない。第一、タグ付けしながらでは組み版の能率があがらない。


 もうひとつは、旧漢字もの。これはうち独特の話かもしれないが、どこでもできる安くて簡単な印刷から、付加価値の高い特殊な印刷へとどんどん舵を切った結果残ったのが、旧漢字組み版のような、入力すら困難な印刷物だったのだ。旧漢字自体はユニコード時代になってパソコンでも入力できるようになってはいるものの、変体仮名の入力も含めて、素人がやるにはあまりに大変だ。もちろん、我々がやっても困難なのは違わないのだが、とにかく執筆者はあまりの入力の煩雑さにねをあげて、印刷会社を頼りに手書きしてくる。最後に残った手書き領域といっていい。


 こうした仕事は、タグの入力法ひとつとってもDTP部門と綿密にうちあわせねばならず、外注は難しい。マニュアルを作って、誰でもできるようにとは思うが、マニュアル自体の作成に時間がかかりそうだし、複雑怪奇なマニュアル自体、現実的ではない。


 結局のところ入力は滅びないと言うことだろう。高度に専門性のある部分で入力の需要はいましばらく続くということなのだ。これはおそらく印刷全般にもあてはまる。デジカメ、パソコン、コピーの普及で、簡単な印刷の需要は激減してしまった。しかし、まだまだ高度に専門化した分野では印刷会社の生きる道はいくらでもあるということだ。まだまだやれるな。



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