第59回 のぞみから電子メイル|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第59回 のぞみから電子メイル

 京都から東京へ頻繁に行き来するようになって久しい。仕事もあれば、業界の会議もある。こういう雑誌にコラムを書いて本までだしたものだから、講演もよく頼まれる。だからといって、京都の若旦那としては京都をそんなに空けるわけにも行かない。行くのはたいてい日帰り、長くても一泊。


 日帰り東京行の強い味方は新幹線「のぞみ」だ。「のぞみ」を使えば、京都からだと、わずかに2時間10分で東京についてしまう。午前中は京都で仕事して、午後一番の「のぞみ」で上京という場合でも、うまく時間を調整すれば、夕方には京都に帰れる。2時間ちょっとというのは、東京では通勤時間圏内なのだから、本当に速くなった。


さて、今月はお題を書いたところで、ネタが割れているのだが、最近、この「のぞみ」の車内から電子メイルの送受信に成功した。携帯電話をノートパソコンにつないで、通信する、いわゆるモバイルコンピューティングである。携帯電話でインターネットというのは、もはや珍しい話ではないが、270キロで突っ走る「のぞみ」の中から、電子メイルのやりとりができると、さすがに感動物だ。


 もっとも、トンネルにはいったりするとすぐに切れてしまう。デジタル機器はこうした瞬断には弱い。トンネルばかりではなく、すこしでも山やビルの陰になったり、携帯電話のアンテナから遠くなったりすると、プッツリ切れる。結局のところ、電波状態のよい場所を走っているときしか通信はできないことになる。これがなかなかスリルがあって、あとトンネルまですこしというときに、ダウンロード完了まで1分とか表示されるとトンネルにはいるまでにダウンロードが間に合うかと冷や汗がでる。ダウンロードできればいいが、重要なお客さんからのメイルのタイトルだけ読めて、切れてしまったりすると、気になってしようがない。こういうときに限って、トンネル続きで2度とつながらなかったりする。


 のぞみから電子メイルといっても、この有様では実用的意味はあまりないと思われるかもしれない。2時間10分どころか、半日、1日電子メイルを見ないという日はいくらでもあるわけで、「のぞみ」にのっているあいだにどうしても電子メイルを見なければならない必然性はないともいえる。


 それでも、忙しくって、朝に電子メイルをチェックできないまま、「のぞみ」に飛び乗ったときなどは、京都・米原間の直線で電子メイルチェックができるのはありがたい。また、東京からかえりの「のぞみ」に、はやめに乗りこみ、走り出す前に電子メイルチェックというのも、一日忙しくって、チェックができなかったときなどは助かる。 ここまでして、電子メイルを読むということにこだわる心理は理解してもらえないかもしれない。これは電子メイルはすぐに読んで、返事を書かないと失礼だと思いこんでいるからなのだが、単にそれだけでもない。郵便受けに手紙が入っていると、それがダイレクトメイルであってもうれしいし、内容を一刻も早くチェックしたくなる。たぶん、その心理に似ている。


 先日の雷の夜。東京駅で通信を試みたがうまくいかなかった。隣の席を見ると、やはりノートパソコンと携帯電話をつないでいる御仁がいる。やはりつながっていないようだ。ご同輩だな。私はつい声をかけた。


「つながりませんか」


「だめですね。雷のせいでしょうか」


 都会の片隅で、見ず知らずの人と思わずかわした会話が嬉しかった。



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