活版機械を動かしていた最後の一人の方が60歳で定年を迎えられた。もちろん、活版自体は4年前に廃止している。この方より若い活版職人さんは平版機にまわったり、製版や電算写植の職場にうつって、この方ひとりが、活版の機械をまわしておられた。といっても、厚紙への印刷やナンバリングなどの特殊用途である。
この方が定年になるのはわかっていたわけで、この夏ぐらいから、そのあとをどうするかの検討を重ねていた。あらたに若い活版工を雇うということは可能だが意味がない。遅かれ早かれ、活版機も寿命が来る。今更、養成したところで先が見えている。それにしても、ナンバリング以外にも活版機の需要というのはまだ結構あることに気がついた。もちろん、「活版の味が忘れられない」というような懐古趣味の需要を除いての話である。
代表的なのは伝票類で差し替えの多い仕事、版面のほとんどが同じで、ごく一部、たとえば区の名前だけが違うというような仕事である。平版の場合、小さな一か所でも違えば版全部をやりかえねばならない。それぞれの発注枚数が多い場合は平版で版をいちいち作ってもよいが、それぞれが50枚とか75枚とかいうような注文ではいささかもったいない。こういう時活版なら、区の名前だけを活字で用意しておいて、機械の上に版を組み付けたまま差し替えて刷ることができる。差し替えというのは、活版の得意技だ。
この手の仕事の代替用に、ナンバリング装置を軽オフ機に付加したような機械もあるにはあるが、スマートではない。やはりコンピュータ世代にふさわしく、オンデマンドの考え方を導入すべきじゃないか。レーザープリンタを使ったらどうだろう。
まず、共通部分は平版で刷る。これはスピードや品質を考えるとしかたない。そのあとの差し替えやナンバリングをレーザープリンタで刷り込んでしまうのだ。字、それもごく一部だけなのだから、品質的にもまず遜色ない。しかもレーザープリンタを駆動するコンピュータで完全に枚数管理ができる。「A」入りを150刷って、次に「B」入りを75、「C」入りを90、・・・・・というような複雑な注文でも最初にコンピュータに入力しておくだけで、確実にこなしてくれる。ナンバリングでも、「0001」を5、「0002」を6、以下ひとつづつ増えるというような、変則的な入れ方でも対応できる。
いいアイデアだと自画自賛。すぐに、印刷機材屋さんに声をかけて適当なレーザープリンタ探してみた。レーザープリンタは数あれど、問題は通せる紙質だ。この手の仕事は、ノンカーボン紙とか厚紙とか特殊な紙を使う場合が多い。特に厚紙の通し能力は一番欲しいところだ。普通のレーザープリンタでも150kgくらいなら通るが、かなり駆動系に負担をかけているのがわかる。1枚2枚ならまだしも、使い続けて、はたして大丈夫だろうか。150kgより厚いとたいてい紙づまりをおこす。無理に通しても紙が反ってしまって商品としては使えない。こうした用途に使えるレーザープリンタは今のところないようだ。オンデマンド印刷のいい具体例なのだが。
メーカーさん。メーカーさん。これ絶対需要あると思うよ。厚紙の通るレーザープリンタ。印刷機のように一日に数千枚通してもびくともしないレーザープリンタ。ヘビーデューティーレーザープリンタである。駆動系を強化して、紙厚調節機構をつけくわえて。できないかな。今はまだ活版屋さんが残っているから、差し替えやナンバリングは活版屋さんにまわっちゃうけど、21世紀に活版屋さんは零細も含めて絶対残りえないわけだから、割と切実な要求だと思う。少なくとも我が社はこれができたら買うよ。