第137回 デジタル印刷はカラーへ|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第137回 デジタル印刷はカラーへ

 デジタル印刷(オンデマンド印刷)のカラー化がとまらない。もちろん印刷業全体のカラー化がとまらないわけだから、デジタル印刷機のカラー化もとまらないのは当然ともいえるのだが、デジタル印刷機のカラー化は印刷市場において革命的な意味をもつ。カラーデジタル印刷は印刷業界にまったく新しい市場を作り出すからだ。


 では逆、モノクロデジタル印刷は新しい市場は作り出さなかったのか。残念ながらこれは確かに作り出さなかったとしかいいようがない。少部数モノクロ市場というのはすでにデジタル印刷機が普及する以前からあったからだ。100部でも200部でも、軽オフセットといわれる分野ではオフセットで印刷を行ってきた。ここにモノクロデジタル印刷機が切り込んだときに、確かに特定の分野で対抗することはできた。しかし、とってかわることはついにできなかった。


 オフセット印刷とデジタル印刷のどちらが安価にできるかの分岐点というのをデジタル印刷の普及当初から推し量っていた。さまざまな統計データから考えて、この分岐点は300部と思われた。これより部数が多ければオフセットの大量生産効果で一部あたりの単価は安くなる。これより少なければデジタル印刷の無版という強みが生きてくる。そしてその分岐点は早晩上昇するだろうと考えていた。つまり、時がたてば、技術革新の途上であるデジタル印刷の単価はさがり、技術的に成熟したオフセットの単価はそれほどさがらないから分岐点は500部へ1000部へと上昇するとみたわけだ。ところがこの300部、今に至るもそれほどかわらない。デジタル印刷の単価もさがりはしたが、それ以上にオフセット印刷の単価も下がったからだ。確かにCTPなどの技術革新もあったが、不景気でオフセット印刷の市場価格がさがった。いわゆる「おっちゃん徹夜オンデマンド」だ。わざわざデジタル印刷機など持ち出さなくても、根性で少部数短納期をオフセットで実現してしまうのだ。


 しかしカラー時代になるとどうだろうか。


 カラーの少部数オフセットという市場は、よほど例外的なものでもない限り、存在しえなかった。単価が高くなりすぎるのである。4枚の刷版とそれを組付ける印刷機、少部数で動かすにはあまりに負担が大きい。デジタルカラー印刷はこの間隙を埋めることになる。まったく新しい市場の創造なのだ。


 カラーオフセットとカラーデジタルを比べた場合、デジタルにはモノクロの比ではない有利さが2点ある。刷版制作と版換えだ。カラーオフセットは版を4枚作り、版を換えるにも4版を換えねばならない。これはいくらCTPやAPC(Auto Plate Changer自動版換え)が普及したとしても負担が大きい。それに対して、カラーデジタルは版がそもそもなく版換えの手間がない。オフセットとデジタルを比べた場合、モノクロよりもカラーの方が刷版制作、版換えということに絞っただけでも、デジタルの利点がはるかに有効に機能する。


 ところで少部数カラーなどという市場がそもそもあるのだろうか。これにはカラーオフセットの普及過程を考えるとひとつ示唆するものがある。カラー印刷の普及を促したのはカラーテレビという事実だ。普段からカラーテレビを見慣れていれば、グラフィカルな雑誌がモノクロであることに読者は我慢ができなくなってしまう。それでも文字印刷ということに関してはモノクロが残ったわけだが、今、当時のカラーテレビに匹敵するものが急激な普及を見せている。インターネットのWEBページである。これにモノクロなどありえない。パソコン画面に向かう人はみなカラーの画面で字を追う。携帯電話の小さい画面ですら今やカラーだ。必定、どんな少部数の印刷でもカラーであることが求められる時代が予測されるのだ。その時代はすぐ近くにある。



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