第80回 ITばあさんが行く|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第80回 ITばあさんが行く

 うちの母のことである。妻ではない。このタイトルの上に、年齢まで明らかにしたのではちょっとおそろしいことになりそうな予感がするので具体的年齢はふせるが、44歳の私の母なのでご想像の通りだ。


 母も電子メイルはもう当たり前のように使っている。かなり早くからワープロを使っていたからキーボードにも慣れており、パソコンにもそれほど抵抗感がないようだ。ただ、基本的には母も女性の常として機械は苦手だ。電子メイルも単なる道具として、電話やファックスと同じレベルで使っているのだと思っていた。。


 その母が、自分のパソコンにMOを増設したいといいだしたのだ。とはいっても実際に増設するのは私だろうなと勝手に想像していた。ビデオの配線にすら難渋していた母のことコンピュータのハードはまさかいじれないだろうと思っていたのだ。しかし、久々に訪ねてみると、外付けのMOがパソコンの横に鎮座し、ちゃんと動いているではないか。


「誰にやってもらったの?」


と聞くと、


「あなたが、なかなか来てくれないから、自分でパソコンショップ行って外付けのを買ってきてつけたのよ。USBだから、なんでもないもの」


と言うのである。USBになってから、周辺機器の接続は簡単にはなったとはいうもの、母が自分で接続までやるとは思ってもいなかったからいささか驚いた。あの機械の苦手な母がUSBという言葉を知っているだけでも驚きなのだ。ショップの定員も、さすがに「MOの接続はどなたがやられるのですか」と確認したらしい。


「『私』といったら不思議そうな顔をしていたわ」


と得意顔である。確かに、MOのハードウェア設定がばあさんにできないなどというのは、こちらの勝手な思いこみだ。USBだったら、プラグをつっこむだけだから、誰でもできるはずなのだ。


 ITに関しては母に限らないが、女性の方が柔軟な気がする。i-modeもふくめ、電子メイルにはまるのは女性の方が多いわけで、電子メイルの操作に習熟していくうちに、すぐにパソコンに馴染んでいくようだ。そして、あれもやりたい、これもやりたいと思っているうちにハードまでいじりだすことになる。私の狭い交友範囲でだが、同級生電子掲示板には普通の文科系の大学を出た専業主婦なのに、突如コンピュータにめざめて、あげく自作パソコンまで作りあげたなんていうメッセージが載っている。この方の最近の掲示板の書き込みはADSLのベンチマークだった。


 対して、男性は、コンピュータが使いこなせる人は確かに多いし、レベルも高い。が、できない人は絶対にやろうとしない。特に高齢の方に顕著である。それなりの地位についた方は、パソコンは部下にやらすものと心得ておられるのか、なかなか自分でキーボードを叩こうとはなされない。パソコン、インターネットの時代は、直接コンピュータに触れないとどうにもならないのにである。こういうお方が、「インターネットの時代っていったって、あんなつかいにくいパソコンなるものが普及するはずがない」とのたまっているのである。そして、ITビジネスが失敗といったニュースをことのほか好んで、吹聴したがる。ITがそもそも嫌いなのかなあ。これではますます、ITの男女間格差、世代間格差は広がって行くんじゃないだろうか。


 母の弁を続けよう。


 「別に、わたしたちの間ではめずらしいことじゃないわよ。友達の○○さんなかは、デジカメでとったひ孫の写真を電子メイルの添付ファイルで送ってくるのよ。もうたまらないわ」



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