第135回 ターゲットカラーのターゲット|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第135回 ターゲットカラーのターゲット

 ターゲットカラーというものがある。まずターゲットとなる標準の色というものが決まっている。日本ではJAPAN COLOR 2001というものがあって、これを標準とすることになっているらしい。ターゲットカラーを決めてさえおけば、すべての校正段階でも本刷り段階でも同じ色が出るはずというのだ。原理は、それぞれのデバイス(ディスプレイ、インクジェット、DDCP、本機等々)とターゲットカラーの差異を数値化し、プロファイルというものを作る。このプロファイルを持っていれば、ターゲットとの色変異が常に明らかになっているわけだから、その差異を織り込んで印刷すれば、どこでも同じ色が印刷できるというわけだ。最初この概念を聞いたとき、なんと「ありがたいもの」であろうかと感激したものだ。原理的にも非常にわかりやすい。


 個々に色を合わせる細かい作業をせずに、数値を指定するだけでどこで刷っても標準の色が出るというのは、印刷屋の理想である。色校正なんか持ち歩く必要がなくなる。DDCPだっていらない。お客さんのディスプレイに、ターゲットカラーと校正のPDFデータを送り込めば、そのままそれが色校正になる。もちろん、プリントアウトしても、ターゲットカラーが指定してあれば寸分狂わない色 が出る。


「よし、それでいこう。ついでに、我が社のシステムも全部それに換えてしまおう。協力会社もみんな、このターゲットカラーを基準にすればいい。色校なんかつくる必要はない」


 ところが、こう宣言すると、みな腰が急に引けるのである。


 今までのありがたい話が一転して、発色の原理の違いから、ディスプレイ、プリンタ、印刷とはターゲットカラーを媒介に色をあわせたらまだそれほどあわないと言い出す。むしろ、個々のデバイス、プリンタと印刷機のあいだのプロファイルをまずあわせるという話をはじめてしまうのである。しかもターゲットカラーをちゃんと出力できるディスプレイやプリンタは天文学的な価格といって逃げるのである。


 最大の問題は印刷機にあるのは事実だ。印刷は、たとえ標準色を決めておいても、毎日色が違ってしまう。その日の湿度、温度、機長の目、もちろんインキの性質にもよる。朝、その日の色をターゲットカラーの標準色見本で刷って、調整し、そのあとまったく調整なしでいいかというと、そんなことは決してない。やはり一回一回調整することが必要になる。なにもせずに一発で色が合う。キーレス印刷などというものができるまでは、単純にはいかないということになる。


 ではターゲットカラーは画餅なのだろうか。そうではないと思う。考え方自体は非常に進んでいるし、対応の機器もそろいつつある。要は業界としてのやる気ではないか。千里の道も一歩から。まずは印刷業界でターゲットカラーの普及をすすめなくては話にならない。まだまだ、ターゲットカラーどころか「色校の責了紙がなくちゃ刷れません」という印刷会社の方が多い。自信をもって、「ターゲットカラーの指定ときちんとしたプロファイルがあれば、色校なんかいりません」と言い切ってくれるところはないのだろうか。もちろんうちも含めての話だけれど。


 まずはターゲットカラーの普及のターゲットを印刷業界そのものあわせなくてはならない。ほっておけば、またインターネットの方が先に標準を作ってそちらが普及したりする。印刷業界がデジタルでこれ以上遅れをとるわけにはいかない。ねえ、みなさん!



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