第27回 レーザープリンタ職人|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第27回 レーザープリンタ職人

 前々回書いた「ヘビーデューティーレーザープリンタ」は反響が大きかった。「頑丈で厚紙の通るレーザープリンタができれば、すぐにでも買う」と書いたものだから、メーカーから「うちのレーザープリンタだったら厚紙も通ります」という電話や電子メイルが次々に来るのだ。レーザープリンタも急速に進化していることをうかがわせる。


 オンデマンド印刷の一形態としてのレーザープリンタは現在進化中といっていいが、版下出力機としてのレーザープリンタはほぼ完成の域に達してきた。一応、「印刷屋」として矜持があるから、我が社ではたとえ文字だけのものでも版下出力はレーザープリンタではなく、イメージセッタによる印画紙出力をしている。素人でも使えるレーザープリンタ出力を版下につかってしまったのでは、プロの「印刷屋」として恥ずかしいと思うからだ。しかし、冷静にその品質を検討したみれば、こだわる必要もなくなってきているような気もする。レーザープリンタ出力を版下として使っている印刷物も結構ある。ちょっと見た目にはわからないし、大きめに出力して縮小製版するといった技法を使えば、ますます印画紙出力との差はわからなくなる。


 活版と写植が併存していたころ、「活版指定」のものに写植を使うと契約違反とされた時代があった。ただし、クライアントの側は活版と写植の区別がつかないことが多く、写植に客をとられた活版業者が「あれは活版と違って写植でっせ」と耳打ちでもしないかぎり、そのままおさまっていた。もっとも、いつの日か、写植は活版と同等とみなされるようになり、現在にいたっている。確かに活版の方が印圧がかかって凹むとか、罫線と罫線の間に隙間ができるとかいう見分け方はある。しかし、「読む」だけのためならこうした区別はほとんど意味がない。


 おそらく、レーザープリンタと印画紙出力もこの「区別のつくつかない」の境界段階に達している。こうなると、クライアントに「思いっきり安くなりますのでレーザープリンタ版下はいかがでしょう」と言ってしまえば一気に普及は進む。区別がつかなければ、「安い」方が選択されるだろう。レーザープリンタの時代の到来だ。


 レーザープリンタは写植機と違って取り扱いが簡単なだけに印刷会社での工夫の余地が大きい。ヘビーデューテイレーザープリンタでも提唱したように、印刷機のかわりとして使うことも可能だ。コンピュータとの組み合わせで、さまざまな使い方ができる。しかも、出力費用が安いのでありとあらゆる実験をやってみることができる。写植機(電算も含めて)のようにメーカーの言うままにしか使えないというのではない。これは、独立心、研究心の旺盛な会社にとっては大変なチャンスである。


 昔は機械をもっているというだけで、プロたりえた。もちろん、機械を使いこなすためには熟練が必要だったが、逆に機械がなければ、いくら熟練したってどうしようもなかった。タイプオフでどんなに熟練しても写植や活版には勝てなかったのだ。今、機械そのものは限りなく低価格化してしまった。レーザープリンタなど、素人でも買える値段だ。ということは「機械をもっている」ということでは儲けの種にはならない。機械が安くてにはいったからといって、製品を値下げしていたのでは先月書いたような、際限のない値下げ競争の泥沼に巻き込まれるだけだ。ここで、熟練の再登場である。コンピュータの世界は使いこなし方によって生産性がまるで違う。機械ではなく、人間の力がものを言う。


 あれれと振り返る。職人の時代ではないか。活版職人のように機械ではなく技量で勝負する時代がまたやってきたのだ。



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