第28回 PS|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第28回 PS

 PSと書いてあなたはなんと読みますか。今やテレビゲームの雄となった「プレイステーション」と読む人が多いだろうと思うが、印刷業界人だと「PS」版あるいは「ポストスクリプト」と読むのが普通だろう。さらにこの「ポストスクリプト」にも二重の意味がある。本来の「追伸」という意味と、「PDL(ページ記述言語)の名称」の意味だ。今や印刷業界隈ではプリンタやイメージセッタに出力する時に使う「ポストスクリプト」を知らないでは仕事にならない。いつのまにか、全世界で通用するPDLの標準となってしまった感がある。しかも、単なるPDLとしてだけでなく一種の共通組版言語的な使われ方をしつつあるようだ。ちょっと、びっくりした例をご紹介したい。


 ある日、知らない人から突然電子メイルがきた。内容は名刺の注文、そして電子メイル添付文書として意味不明な文字の行列。なんなんだろう。注文内容は「この添付文書で名刺を作ってください」というそっけないもの。中西印刷ホームページを見た人から、名刺の注文を電子メイルでいただくというのは珍しい話ではない。名刺はクライアントにしてみれば注文するのも取りに行くのも割に面倒なもので電子メイルでの発注がよく利用される。ただ、普通なら名前や住所を書いた原稿にあたる文書が電子メイルで送られてきて、それを元にこちらで名刺の組版をすることになる。ところがこれは添付されていたのはポストスクリプトファイルそのもので原稿にあたるものがない。物はためしと、このデータをポストスクリプトのレーザープリンタから出力してみる。驚いたことに見事な名刺の組上がり版下が出力されてきた。しかも文字だけでなくロゴマークやトンボまではいっていて心憎いばかりだ。


 ここまでやっていただいてあれば、あと、印刷屋ですることは印刷だけである。名刺の版下をDTPで作って出力して渡すという人はめずらしくないが、ポストスクリプトファイルにして送りつけるというのはどんな人だろうと興味が湧いた。通常、名刺の納品に私自身が出向くことはほとんどないが、この時ばかりは先方の顔を見にでかけていった。 大学の先生だった。やはり情報工学専攻ということで、コンピュータには特に詳しいらしい。


 「名刺の版下を取りに来てもらうのもめんどうだし、電子メイルだけですまそうと思ったのだけれど、ワープロやDTPのファイルを送ったら、出力する時に化ける時があるでしょう。その点ポストスクリプトだったら、どこの印刷屋でも確実に同じものが出力できると思ってね。近くの印刷屋さんをインターネットで検索したんですよ」


 「あのポストスクリプトファイルはどういうソフトで作られたのです?」


 「自分で書きました」


 「えっ、ワープロやDTPソフト使わずに、自分でポストスクリプトファイルを直に書かれたのですか?」


 「ええ、別にプログラムだと思えば簡単ですよ」


 先生はこともなげに言ったものだ。確かにポストスクリプトファイルというのは単純なテキストファイルでエディタを使えば、中身を見ることはできる。しかし、その中を直にいじるというような性格のものではないと思っていたのだが、この先生にとってみればなんでもないことなのだ。この先生のような例はまだ多くない。だいたい我々印刷人にしても、エディタでポストスクリプトファイルをごりごりいじるなんていうことは普通やらない。あんまり、おすすめできる使い方とはいえないが、PSもこれだけ普及してくると、色々な使い方ができるということの一例ではあるのだ。



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