第23回 南紀、電池探しの旅|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第23回 南紀、電池探しの旅

 京阪神からの一大観光地南紀へ、2泊3日の家族サービス、ドライブ旅行へ行ってまいりました。2泊3日というと、いかな週休2日制といえど、一日は平日と重なるのだけれど、大丈夫。私には電子メイルという強い味方があるのだ。


 クライアントには常々「連絡は電子メイルで御願いします」と言ってある。電子メイルだと、どこにいても文書のやりとりが可能だから、携帯パソコンひとつで、旅先からでも充分仕事が出来るわけだ。もし、会社への指示が必要なことがおこったら、電子メイルから会社のFAXへ文書を転送してしまえばいい。本当は、そんな姑息なことを考えずに、なにもかも忘れて旅行を楽しんでしまうのがいいのだろうが、なかなかそうはいかないのが、中小企業の辛いところ。


 1泊目は那智勝浦の温泉旅館。ひと風呂浴びて、さあ、作業開始だ。部屋の電話をモジュラージャックからはずし、そのかわりに、いつも持ち歩いている携帯パソコンをつなげる。そして、勝浦近くのアクセスポイントを探して電話をかける。これだけで、パソコン通信につながってしまう。こと電子メイルに関してはパソコン通信につながったというのはインターネットにつながったと同義だ。全世界のコンピュータから電子メイルを受けられるし、発信もできる。


 おや、どこからか、電子メイルが来ている、と思った次の瞬間、携帯パソコンの画面が消えた。


 ありゃりゃ、電池切れか。こうした携帯パソコンは電池駆動が多いが、あまり長時間持たないのがたまに疵だ。もちろん、準備おこたりなく補充用も持ち歩いている。電池をかえれば、直る。・・れれれ。直らないぞ。いろいろ調べてみたが、ICカードのバックアップ用ボタン電池が切れているらしい。そういえば、うちのギャングども(3歳と1歳の男の子)が、触っていたっけ。しばらく、思いつく限りの応急処置をやってみたが、だめ。しかたない。どうせ今日は土曜だし、電子メイルが来ることもない。あした町に出て。電池を探せばいいか。


 翌日、本州最南端の町串本で探し当てた電気屋にて、小さなねじまわしを貸してもらい、当該のボタン電池をやっととりだした。同じ物を買おうとしたが、ない。どうやら、かなり特殊な規格のものらしい。店の親父さんはすまなそうに、「ここらにはないでしょうな。あるとすれば、田辺かな」とこの地方最大の町の名を言う。2泊目の宿は、南紀白浜だった。田辺は白浜の隣町だ。ちょっと足をのばせば行ける。


 日曜の夕方の田辺は大渋滞だった。その中をようやっと串本で教えて貰った電気屋を見つけた。この地方最大の電気屋らしいが、いわゆる家電量販店。悪い予感がする。この手の店は売れ筋のものしか置かない。案の定、その電池はなかった。


 この日この時、万事窮す。こうなってくると、妙な物で、勝浦で見た電子メイルにとてつもなく重要なことが書いてあったような気がしてしかたがない。ああ、電池ひとつで、これだけ悩まなければならないなんて。電子メイルも電池ひとつで、手の届かぬものになってしまう。コンピュータ社会の危うさを見たと言えば大げさか。


 最後の手段は、インターネットカフェのようなパソコンそのものを貸してくれるところだ。旅館のフロントに聞いてみるが、温泉地に秘宝館や怪しげな劇場はあっても、インターネットカフェはないという(当たり前だ)。結局、もしや万一重要な電子メイルでも来ていたらとおそれおののく最後の1日になってしまったのだった。あーあ。



ページの先頭へ