第53回 圧縮と解凍|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第53回 圧縮と解凍

 いやあ、時代はあっというまにフロッピー入稿からオンライン入稿時代になってしまいました。しかも、テキストファイル入稿ではなくて、バイナリファイル入稿。クライアントは、おそらくワードや一太郎だと意識することもなく、入稿データを送ってきているのだろう。これも、電子メイルが普及し、機能も洗練されて、添付ファイル送付が使いやすくなったことが大きい。マウスでクリック一発、ワードであろうが一太郎であろうが、果ては画像であろうが、なにげなく電子メイルと一緒に送れるようになったからだ。


 しかし、それにともなって、いささか困った事態もでてきた。画像のはいったデータなど超肥満体の場合が多いのだが、こうした肥満データファイルがクライアントからいきなり送りつけられてくる事だ。電子メイルソフトは小さいファイルも大きなファイルも律儀にえんえんと時間をかけてダウンロードしてくれるものだから、いったん、肥満ファイルにあたったが最後、大事なメイルチェックがそこでストップしてしまう。朝一番、メイルチェックで急いでいるときに、肥満ファイルにでくわすとうんざりする。


 そこで、「せめてデータを圧縮してくれ」と画面に向かって毒づくことになる。コンピュータデータには冗長な部分が多い。これを圧縮すれば、ファイルサイズをぐっと小さくできる。容量が小さくなればデータの転送時間をはるかに短くできる。今でこそ、インターネットの添付ファイルでバイナリデータをがんがん送れるようになったが、10年ほど前、パソコン通信といっていたころは、電子メイルにバイナリデータなど流すのはもってのほかだった。しかも、通信速度は今のインターネットの100分の1しかなかった。ここではデータの圧縮は切実な問題だった。


 圧縮とは、よくいったもので、膨れ上がったデータをちいさくまとめてしまう。イメージとしてはまさしく布団圧縮袋だ。使わない布団から空気を吸い出し、押入にちいさく収納してしまうあれだ。布団として使うときには、外に干して綿の間に空気をいれることになる。これと似たことをコンピュータデータに対して行うわけだ。データ圧縮の効果は布団袋どころではなく、画像データなどでは、100分の1程度まで圧縮することも可能だ。ワープロなどの文字データも冗長な部分が多いので効果は大きい。


 圧縮ソフトはアマチュアプログラマの腕のみせどころで、多くの名人がいた。中でも、北海道のお医者さん吉崎栄泰氏のLhaは有名で、インターネット時代になっても、圧縮というと、Lhaがよく使われる。他には国際的に有名なZIP、MAC標準といっていい、Stuffitなどがある。データを元へもどすときは、解凍という。これは電子レンジで、コチコチに凍った食品を暖め直す感じである。


 私は、パソコン通信時代からの生き残りだから、生のファイルなどどうしても送る気になれない。組版を協力会社に発注するのにも、だいたい親切のつもりでデータを圧縮してから送ることにしている。にもかかわらず相手から、


「データが開きません」


と言われては、やっぱりがっくりする。相手はデータの圧縮ということすら知らないのだ。一時代前の技術とはいえ、印刷業界で食おうと言うんだったら、データ圧縮と解凍ぐらいはおぼえておいて欲しい。まあ、次からはデータの圧縮解凍も知らない会社には注文をださないだけですけれども。もちろん、この思いはクライアントさんも同じでしょうねえ。印刷屋も憶えておかなければならないことが多い、このごろです。



ページの先頭へ