第84回 テンプレートのすすめ|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第84回 テンプレートのすすめ

 フロッピー入稿が一般化して10年になる。今や、一から文字入力しているのは手書き原稿と変換不能な古い専用ワープロ(この言葉も死後に近くなった)で作られた原稿ぐらいのものだ。なのに、ちっとも入力部門がひまにならない。全部が手書きであった時代と比べて、仕事量は極端に減ってしかるべきなのに、たいして減っていないのだ。もちろん最盛期に比べれば、入力部門の人数を減らしているから当たり前ともいえるのだが、それだけが理由ではない。


 最大の原因は素人入力のトホホファイルなのだ。これを組版に使うためには、まともなファイルに作り直す「掃除」作業が必要になる。この「掃除」対象はトホホDTPファイル以前の問題のものがほとんどだ。数字表現に全角と半角がいりまじっていたり、ハイフンと音引きが混同されていたりという、もっとも基本的な原稿入力ミスだ。それに加えて余計な整形にも煩わされる。インデントが単にスペースを打ち込んでやってあったりすると脱力してしまう。一括置換などでなんとかなりそうなものだが、ハイフンと音引きが無原則に使われていたりすると、どこでどう変わるかわかったものではないので、物騒でなかなか一括置換というわけにもいかない。結局、入力部門で「掃除」が必要となってしまうのである。


 トホホファイルでの入稿が如何に印刷工程にとって迷惑千万かはフロッピー入稿開始の当時からもう十数年言い続けているのだが、一向に減らない。理由は簡単で、トホホファイルライターは次から次へと新たに登場するからなのだ。ほとんどの人にとって、印刷物になる文章を書く機会なんてそうそうあるもんじゃないから、次々新たな人がトホホファイルをもって印刷会社にやってくるというわけなのだ。


 さてこのトホホ退治に威力を発揮しているのが、テンプレートや雛形の配布だ。あらかじめ「こういう風に入力しておいていただければ助かります」というインストラクションを含んだテンプレートを原稿執筆の前に配ってしまうのだ。特に多人数から原稿を集める文集や報告書の類には有効なようだ。この手の物は、以前は各著者からばらばらの原稿がはいってくるのが常だった。ワープロの時代になっても、著者ごとにありとあらゆるファイル形式でもちこまれて、収拾がとれなかった。いったん組み上げてから、校正段階での訂正の嵐に身をまかせるか。優秀な編集者に一度、全部の原稿に手をいれてもらうしかなかった。


 テンプレートは特定のワープロソフトに特有なものとなるので、以前のようなワープロ百花斉放の時代には使えなかった。各社すべてのワープロテンプレートを用意するなど不可能だったからだ。ところが、今となってみれば、実質、M社とJ社のワープロソフトにさえ対応しておけばまず問題がない。ワープロソフトの寡占化が生んだ恩恵でもある。テンプレートに沿って作っておいていただければ、まずトホホにはならない。全角半角問題も、半角だけとか、全角だけとかに入力しておいてもらえれば、あとの訂正もはるかに楽だ。入力する方も楽なようで、好評だ。うまくやれば整形情報も使える。 もちろん、テンプレート法を成功に導くには、編集者の側に理解と協力が必要ではある。トホホがいかに印刷工程上無駄であり、結局はコストと納期に跳ね返るのだと説明する。大抵はご理解いただけるのだが、今はいかにも時代が悪い。「そんなややこしいことをさせる印刷屋など、願い下げだ」と言われてはおしまいなのだ。


 結局はクライアント教育次第ということなのかもしれない。テンプレートでの入力を正確にしてもらえれば、最終的にはクライアントの利益にもなると思うのだがなあ。せちがらいご時世だから、これがなかなかうまくいかない。



ページの先頭へ