第17回 印刷インターネット通販の現在|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第17回 印刷インターネット通販の現在

 インターネット通販が花ざかりである。印刷業全体であまり景気のいい話を聞かない中、印刷のインターネット通販だけは急成長の話があふれている。これはやらない手はないなというわけで、当社でも検討をはじめた。というところまでは去年書いたのだが、その後の報告である。確かにこれはおもしろいが、なかなか難しいことも多いのがわかってきた。景気のいい話が蔓延する割には参入するところがすくないのも道理である。


 だいたい、印刷というのは注文生産が前提で、スペックの決まったパソコンやカメラのような「物」を売るのではないから、商品が呈示がしにくい。印刷はクライアントと一対一で交渉しながら作っていくのであって、通販のような一方的に売るというかたちにはなりにくいのだ。多くの通販サイトでは商品数を絞ることで無理矢理商品化をはかっている。昔からある年賀ハガキとか名刺の受注サイトが典型だ。こうすることで、商品としての呈示をしやすくするとともに、多くの注文を付け合わせてコストダウンもはかれるというわけだ。最近ではチラシなどにもこの技法が適用されている。


 当社でもこの商品の絞り込みと大量付け合わせ法を検討してみたが、出版印刷物を中心としてきたわれわれの業態とはあまりに遠いといわざるをえなかった。それにこの世界はつまるところ価格勝負であり、いかに大量の注文を受け付けて、自動化効率化を図れるかにかかっている。結局、この業態はあきらめたのだが、検討を行っていく過程で、印刷ネット通販とは、ソフトハードを含めたコンピュータシステムの出来がすべてだということがわかってきた。注文をうけつけ、同じような仕事を付け合わせて、大量に機械に流し込んでいくという工程を効率的にこなそうとすると、コンピュータで制御していかざるをえない。これは単純なWEBページの製作能力だけではすまない。しかも自社でそうしたプログラムが作成できないと運営は難しい。他社に発注しているようでは、臨機応変な対応ができないだろうし、費用もかさんでしまう。


 さて、われわれが考えたのが冊子印刷に特化したサイトである。これなら我々の経験とWEB作成の能力がいかせると考えたわけだ。ここにいたるまでだけでも、侃々諤々会社中で議論になってしまった。単に、印刷ネット通販といっても誰を対象に、どんな種類の印刷を行うかで性格はまったく違った物になってしまう。印刷会社とひとくとちにいっても千差万別なように、印刷ネット通販といっても、ありとあらゆるバリエーションがありうる。もちろん、印刷ネット通販に向く印刷物と向かない印刷物があるだろう。冊子印刷がはたして通販に向いているのかどうかは未知数である。


 つぎに、原稿をどううけつけるかである。「PDFに限る」としてしまえばことは簡単だが、プロと違ってPDFを作れるという人はそれほど多くはないだろう。それにPDFだって、クライアント製作の物はそのまま使えるとは限らない。営業が関与する普通の注文でも裁ち切りが考慮されていなかったり、ノンブルがずれていたり、トラブルが続出するのに、通販ではいったいどんな事態が招来するか検討もつかない。ワードや一太郎まで認めるとなると、そのトラブルは想像を絶する。ワードは出力環境によって勝手にレイアウトを変えてしまうのでおそろしい。悩ましいところだが、当たって砕けろである。とりあえず注文もこないうちから制限するのもおかしいだろうと、ワード・一太郎も入稿メニューに加えることとした。


 代金回収も頭痛の種である。営業の関与した一対一の関係なら、代金が回収できないということはまずない。クライアントと会って、場所もわかっているからである。通販ではそんなわけにはいかない。電子メイルの向こうに誰がいるかわからないからだ。とりあえずは前払いを前提にサイトを構築してみたが、前払いで果たしてどこまでクライアントがあらわれるだろうか。


 実はまだこのサイトは公開していない。始める前から議論ばかりしていて、先へ進まない当社の悪い癖がでてしまった。この過程、本欄でもおって、報告していきます。さて何がおこるか。



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