第11回 ユニコードが降ってくる|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第11回 ユニコードが降ってくる

 ユニコードという名前をご存知だろうか。おそらく、大部分の印刷人は「知らない」と答えられるだろう。では、JIS漢字X0221は、御存知だろうか。「あっ、それなら聞いたことがある。漢字をコンピュータで扱えるようにするために、JISで規格化したやつだ。確か、第一水準と第二水準があって、事実上の日本の漢字の標準となっている・・・・」残念ながらこの回答は不正解。それは、JISX0208である。

 JIS X0221は今年1月に日本工業規格となった、まったく新しい漢字符号化体系である。今までのJIS漢字にはいっている漢字はすべて網羅しているが、今までのJISとはまったく互換性のない漢字コードである。そう「互換性のない」コードなのだ。この連載の最初の方でも書いたけれど、漢字コードという奴、みんなが共通に同じ物をつかっていればこそ、コンピュータで漢字が扱える。これがみんなてんでバラバラなコードを使っていた日には、フロッピー入稿なんてできやしない。違うシステムに漢字データをもっていくたびに、漢字が化けまくってしまうのである。ましてや互換性のないコード同士では漢字がやりとりできない。やるとすれば、一字一字、漢字の対応表を参照しなくちゃならない。


 なんでまた、互換性のないコードを今頃JISに認定してしまったのだろうか。結論から言うとアメリカのソフトメーカーが押しつけていったとしかいいようがないのだ。事情をさかのぼってみる。日本にはJISコードがあった。中国にはGBコードというのがある。韓国にはKSコード、台湾にはBIG5というコードがある。相互の互換性はない。当たり前だ。東アジア漢字文化圏とはいっても、それぞれの漢字に対するスタンスは微妙に違う。中国には簡体字があるが、台湾はいまだに旧漢字でがんばっている。日本も、常用漢字では、新字体を採用しているが、JISの第2水準や補助漢字には旧漢字や、異体字もはいっている。それに、日本にはひらがなかたかながあり、韓国にはハングルがある。共通化できるはずもない。しかし、この事態をアメリカ人というのは理解できない。


「みーんな、おんなじ漢字じゃあっりませんか。おっかしいーですねえ」


ということになる。確かに、ラテン文字文化圏で、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスで、コードが異なるなどというようなことはない。ドイツ語などでは上の点々(ウムラウト)なんかの問題があるから、完全に同じということはないが、AならAのコードは同じだ。単に「おっかしいーですねえ」で首をすくめているだけならいいのだが、ソフト屋はそんな悠長なことはいってられない。西海岸のソフト屋はソフトを東アジア漢字文化圏に売るには、ソフトの日本語化、中国語化、韓国語化、台湾語(そんなものはないが、いきがかり上)を、いちいち根本からやりなおさなければならないのだ。


「やってらんねえーぜ」となるのは時間の問題だった。東アジア漢字文化圏とて、この問題について見過ごしていたわけではなく、各国が集まって、現実に現在のJISなどのコードがある以上、それを尊重しながら、おだやかな統合に進むことが決定されていたのだ。いわやる「互換性のある」統合である。そこにユニコードが湧いてくる。アメリカ西海岸から、東アジアなんかに悠長にやられたんではいつまでたっても、先へ進まないと、全世界の文字をひとつのコード体系にのせてしまおうという提唱がなされたのである。漢字は簡体字も正字も常用漢字もいっしょくたの体系である。これが、あれよあれよというまに、東アジアの合意もなにもかも蹴散らして、国際標準として追認されてしまう。そして、今年の一月JISになってしまったのだ。WINDOWSなんかの基本ソフトでは、今後、ユニコード化が進むのは必至の情勢となってきた。日本の漢字はどうなるのだろう?


 注・JIS X0221原本は日本規格協会からでています。総1036ページ、25000円です。



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