第33回 カラートホホファイル|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第33回 カラートホホファイル

 「4色分版がどうしても通りません」


 という付せんがついて、現場からMOが返ってきた。これがまたクライアントもちこみMOなのだった。今やカラーの原稿までが、コンピュータデータでやってくる。カラープリンタやデジタルカメラの普及で、素人でも簡単にカラーのドキュメントが作れるようになっているのである。それでも、安いインクジェットのカラープリンタか何かでお楽しみ程度あれば、なにも問題はなかった。それを印刷用にも使うと言い出すクライアント様がいるから、困ったことになるのである。


 たいがい使えない。そう、カラートホホファイルになってしまっているのだ。DTPのトホホファイルについては、一回書いたが、めちゃくちゃな作り方のしてあるクライアント作成DTPファイルのことだ。印刷用にはよほど手をいれないと使えない。


 さて、うまくいかなかったというMOは何が原因だったのだろう。調べてみると、特色28色で作ってあったのだ。印刷屋だと、カラーは4色に分解するものと、反射的に思ってしまう。裸を見ても「肌の色が悪いな」とは思わない。「ああ、シアンガまさっとるな」と思ってしまう。貼られてから日にちがたった田舎のポスターも「色あせた」とはいわない。「マゼンタがとんだ」という。もちろん、この感覚が異常なのであって、普通の人は、肌色は肌色であって、浅黄は浅黄であって、群青は群青なのである。決して、C40M20Y100K10などとは言わない。だが、印刷しようと言うときは、やはり4色に分解していただかないと困るのである。浅黄色だから浅黄色を指定してもらっては困るのである。


 昔、印刷屋で何もかもやって、素人は何もできなかったころ、お客さんの言う「このへんもうちょっと赤っぽく」というのを「Mを何%にあげる」と頭の中で翻訳できるのが、優秀な営業マンであった。しかし、今や色の処理までクライアント側でするということになってみると、これももう古き良き時代の営業だ。特色28色か。ああ。


 クライアントに電話して元からやり直してもらうしかない。


 「あの、つまりですねぇ。カラーの印刷インキには赤黄青と黒の4色しかないわけでして、カラー印刷するときは色をこの4色に分けないといけないわけです。ところが、あの、いただいたMOのDTPファイルは28色を別々に指定しておられてですねえ。・・・・いや、わかりますよ。赤は赤です。青は青です。そういう意味ではなくてですね・・・・・・」


 だめだった。泣く子とクライアントには勝てぬ。やり直してもらおうなどという発想が甘かったのである。オペレーターに辛い作業を命じねばならないようだ。


「先方に、4色分版のファイルにやり直して貰おうと思ったんだけど、どうしても理解してもらえないんだ。『そのへんは、プロの印刷屋の仕事でしょう』というんだよ。で、やり直してくれる?」


 「つまり、特色28色をひとつひとつ4色に分版指定し直せと」


 「できない?」


 「できます・・・・けれどね」


 結局、コンピュータで特色28色を4色分版にやり直すのに丸2日。そして、だした色校正がカラープリンタと同じ色じゃないというクレイムがついた。それは素人用のカラープリンタの方が色がいい加減なのだってば!トホホホホホホ。



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