第125回 終焉「手にマック」|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第125回 終焉「手にマック」

 もちろん、表題の「手にマック」は「手に職をつける」のパロディである。アップルのマッキントッシュ-マック-はDTPのプラットホームとしてもう20年の歴史をもつ。というよりマックとレーザープリンタがDTPを創始したというべきだろう。組み版が電算写植からDTPへと大きく変わった1990年代、まず印刷業界が手にしたコンピュータがマックだった。DTPやデザインにはマックというのが常識だったし、デザイン業界に就職しようとすればマック使いになることは必須だった。マックさえ習得すれば、デザイン業界への就職に有利といった伝説さえあった。まさしく「手にマックをつける」なのだった。もっともこの伝説はデザインやDTPを教える専門学校あたりが流布させたのだろうが。


 しかし、印刷業界への普及とは裏腹に、巷のパソコン界でのマックのシェアは下がるばかりだ。今ではわずかに3%といわれる。当然、それにかわるのはウィンドウズである。ウィンドウズには批判もあるが、とにかく圧倒的なシェアを誇るから、アプリケーションも豊富だし、ハードのメーカーも多彩で、価格も安い。ウィンドウズDTPは高精細の印刷用には向かないといわれて、あまり印刷業界での普及は進んでいなかった。うちでもデザイン部門や画像入力部門のような、いち早くパソコンDTP化した部門はマックが主力であり続けてきた。


 だが、今となってみれば、マックである必然性がなくなりつつある。マックでできることはウインドウズでもできる。DTPや画像アプリケーションソフトもすべてウィンドウズでそろう。ウィンドウズではトラブルが出やすいといわれた出力系もPDFワークフローの普及で問題がなくなってきた。これではマックを使い続ける理由がない。ウィンドウズなら各メーカーよりどりみどり、ハードの選択範囲がめちやくちゃに広くなるし、オフィス系のソフトとも連携がとりやすい。それにウィンドウズを中心とした社内LANとの接合を考えたらウィンドウズの方が便利だ。それでも、今使っているという現実は重い。どうするべきかと悩んでいたところへセキュリティ対策の問題がでてきた。


 先月号にも書いたがセキュリテイ対策は焦眉の急。基幹系のサーバーがウインドウズであるうちのような会社の場合、セキュリティ対策をちゃんとやろうとすれば、システムをウィンドウズで統一せざるをえないのだ。結局、これが決め手になって、マックからの離脱を決意した。もはやOSの違うシステムを混在できるほど甘い時代ではない。


 もちろん、会社中ですんなり受け入れられたわけではない。いわゆる「手にマックをつけた」オペレーターはなかなかウインドウズという環境にはなじめないものらしい。マックには昔から熱心なファンがいる。ウィンドウズがよい、いやマックこそ使いやすいという論争は、パソコン通信やインターネットの掲示板で何度も繰り返されてきた。ここでこんなコラムを書くだけでも壮烈な反論がでることだろうとも思う。だが、考えてみてほしい。議論が繰り返されて結論がでていないということは、結局使い勝手にたいして差があるわけではないということだ。マックにもウィンドウズにも一長一短がある。百歩ゆずってマックに操作上の優位性があるにしても、ほとんどは慣れの問題に帰着できると思う。


 栄枯盛衰。電算写植もはやって廃れ、マックもはやって廃れた。そしてウィンドウズもやがて廃れるときがくることだろう。それは日進月歩のこの世界にいる以上しかたがない。つまるところ、若いときにつけた技能で一生食っていけるという時代ではないということなのだ。最終的には、操作技術のような「手に職」なのではなく、組み版の知識やデザインレイアウトなどの「頭に職」の時代なのだろう。



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