第77回 携帯電話の世界|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第77回 携帯電話の世界

 大学時代の友人とひさびさにあった。学生時代はろくに授業にも出ず、アルバイトやお遊びにせいをだしていたお仲間も、40代半ばとなってみれば、もっともらしい管理職と化して、私と同様、胴回りに脂肪をたっぷりと蓄えている。


 それでまあ、飲み屋でいっぱいとなったわけだが、件の彼はちょっとのあいまに、さかんに携帯電話をつっついている。


「なにやってんだ」


と聞くと、


「メイルだよ」


 という。いわゆる携帯電話による電子メイルなのだ。そんなもの若い人だけの流行かと思っていたら、おじさんも充分はまっているという。わたしなど、電子メイルや電子掲示板に依存する生活を10年以上前から送っているから、フルキーボードでないとメイルを打つ気にならない。携帯電話での親指メイルはまどろこしくってやる気にならない。携帯電話をノートパソコンにつないでのメイルはやるが、これは携帯メイルとはいえない。


 しかし、そんなことを言っていられるのも私のライフスタイル故かもしれない。家のパソコンから、会社のパソコンまでの通勤時間は車で15分。出張など遠出するときもノートパソコンを持参するから、携帯電話でまでメイルという切迫感がないのだ。逆に、電車や地下鉄を通勤や営業に使う東京の勤め人にとっては、携帯電話メイルは必需品なのかもしれない。


 私が、最近の携帯電話をもっていて、便利だなあと思うのは、インターネット接続サービスだ。いわゆるi-MODEとか、EZ-WEBである。宣伝文句通りどこでも情報がえられる。このことが本当にありがたいと思うのは、新聞も雑誌もおいていない食堂にまぎれこんだときだ。今までなら、メニューを何回も読み返したりして、注文した物が運ばれてくるまでの暇つぶしをしたのだが、携帯電話で最新のニュースを読むながら待つのが最近のスタイルになった。地下街ではいまのところ携帯電話が使えないことが多いので、自然に地上の食堂を選ぶようになるという副作用まである。


 そうして、ふとみると、食堂の机にすわって、携帯電話をポチポチうつという姿は、最近はめずらしいものではないことに気がつく。たぶん、メイルがほとんどだろうけれど、私みたいに、ニュースを読んでいるなんていうのも多いと思う。ゲームもできるし、さまざまな金融サービスなどもはじまっている。わたしなどは携帯電話の使い手としてはたぶん最低のレベルだろう。


 一昔前、「コンピュータは持ち運べないから、印刷物の敵にはならない」なんて言説を、ふりまわす人が多かったが、なにも文章を読むのに、紙の本である必要はない。コンピュータである必要もなくなってきた。携帯電話で充分なのだ。


 携帯電話自身もさらに進化を続けるだろう。最近の商品では、ウォークマンと合体したものがある。音楽はネットを通じてデジタル受信するわけだ。ウォークマン合体携帯電話は、電波で音楽を送るわけだが、ラジオと根本的に違うのは、好きな曲を好きな時に受信して聞けるということだ。これを一歩すすめれば、当然、本や雑誌、新聞そのものを電波で送ってもらい、好きな物を好きなときに読めるという携帯電話となる。おそらく、最終的に携帯電話はPDA(携帯情報端末)とも合体し、自由に好きな本をダウンロードして読むことのできるウェアラブル(着ることのできる)パソコンになっていくだろう。


 そんなものを携帯電話とよべるか。いやむしろ、そういうウェアラブルパソコン用コンテンツを創るサービスも印刷屋と呼ぶようにできるかどうかということの方が重要であるのかもしれない。



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