第69回 マニュアルの消滅|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第69回 マニュアルの消滅

 最近、自宅のパソコンを買い換えた。すでに数えること6代目である。パソコンの性能は買い換えるたびに飛躍的に向上し、値段は安くなり続ける。このコラムがはじまってからも、パソコンの安いこと性能のあがったことは何度も話題にしてきたが、ついに、ご家庭用でハードディスク30GB!CPUクロックは667Mhzにいたっている。1年前なら、堂々たる最高スペックのプロ用DTPマシンというところだろう。ディスプレイはもちろん液晶だ。これでも、このコラムが単行本になる(なるんだろうか)頃には、この程度のスペックでなんであんなに興奮していたのだろうと思うことになるのだろうけれど。


 さて、我が家では、家庭内LANを引き回して、家内のコンピュータとデータを共有しているので、どうしてもコンピュータはLAN接続をしておかねばならない。コンピュータのスイッチを入れる前にLANボード増設をすませておこうとしてはたと詰まった。


 マニュアルがないのだ。マニュアルがなければ、パソコンのボディーを覆うカバーの、はずしかたもわからない。最近のパソコン、特に今回買ったみたいなご家庭用パソコンは、妙にデザインに凝っていて、裏側のねじをとったくらいでは開いてくれない。無理にこじあげて、安くなったとはいえ買ったばかりのパソコンをこわしてもおもしろくない。


 マニュアルはどこへ行ったのだと、梱包内容を再度チェックした。わかったことは、マニュアルは元々はいっていないということだ。では、今回みたいにメモりを増設するときにはどうするのだ。最近のパソコンはメモリの増設なんか素人がやっちゃいかんということだろうか。それにしたって、プリンタとか、スキャナとか必須周辺機器の接続の仕方すら書いてないのはどういうことだ?いくらご家庭用と言ったって、それぐらいはつけるだろう。


 悩んだあげく、横着してざっとしかみていなかったスタートアップガイドを逐一読み直してやっとわかった。「詳しいことはユーザーズガイド」という名のCD-ROMを見るしかないということなのである。このCD-ROMを見るためには、とりあえず、メモリとか、LANボードの増設をあとまわしにして、コンピュータをたちあげざるをえない。


 パソコンが動いてやっと意味がわかった。ちょっと見ぬ間にパソコンはプラグアンドプレイ、USB接続へと進化をとげていた。これは今までとはまったく逆に「電源をいれたまま」新規の周辺機器をつなぐ設定になっている。そのためには、パソコンのスイッチを入れる前に、紙のマニュアルを読んで勝手に周辺機器をつなぐようなことをされては困るのだ。だからこそ、パソコンのスイッチをいれないことには、いっさい何もできないように、それこそ、カバーのはずし方もわからないようになっている。マニュアルが添付されないのは経費節減のため(もあるだろうが)ではなく、誤操作を防ぐためと考えるのは、うがちすぎだろうか。


 印刷屋としては、ついにここにいたったかと、思わざるをえない。CD-ROMのマニュアルというのは以前からもあったが、それでもある程度のことを書いた紙のマニュアルも別途ついてくるのが普通だった。つまり、紙のマニュアルが主で、CD-ROMは従だった。それがいつのまにか逆転し、今では、紙でついてくるのは、うすっぺらーい簡単なスタートアップマニュアルと、極初心者向けの解説だけになってしまった。パソコン初期にはマニュアル印刷というのは相当需要があったはずだが、またこの需要が消えたわけだ。 印刷はもはや紙の上に印字というところだけを相手にはしていられない。つくづく痛感いたしました。



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