第18回 人材を求めて|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第18回 人材を求めて

「フルデジタル化したいのはやまやまなんでっけど、なにせ、金がない、人がないで、どうにもなりまへんわ」という言葉をよく聞く。「金がない」のはお互いさまだ。この不景気に潤沢な資金をもって設備投資できるところなどありはしない。ただ、「人がない」というのは考え違いだと思う。フルデジタル化を可能にするようなコンピュータを使いこなせる人間はあなたの会社にも必ずいる。特に、最近の若い人のコンピュータ能力には計り知れないところがある。彼らだって、自分の能力を発揮したいに違いない。


 はっきり言ってしまおう。「人がない」んじゃない。「人を使えていない」のだ。


 この春、中途採用をした子が実に優秀だ。コンピュータ関係の専門学校を出て、さる印刷会社に就職したらしいのだが、「コンピュータを使わせてもらえなかった」のに愛想を尽かして転職したという。では何を使わされていたかというと、電算写植機らしい。電算写植機はコンピュータではないかと言われるかもしれないが、あれはコンピュータを使った道具であって、訓練すれば誰でも使いこなせるようになる性格のものだ。コンピュータを扱う能力よりも組版やデザインのセンスの方が仕事を遂行していく上では重要になる。


 コンピュータの専門学校で彼が習ったのはプログラミングだ。彼もプログラミングがやりたくて、印刷業界にはいってきたわけだ。


「募集要項にC言語のできる方歓迎と書いてあったのに、入社してみたらCのコンパイラすらないんですよ」


 おそらく、その会社の人事担当はC言語という言葉は知っていても、それがどういうものかは知らなかったのだろう。「コンピュータに詳しい人」というのをしゃれて言ったつもりなのかもしれない。しかし、本当にCでプログラムが書ける人にとってみれば、この募集要項の記述は詐欺に等しい。


 このような経緯で印刷業界に恨みをいだいたまま去っていったコンピュータ関係の人材は数多いのではなかろうか。電算写植という名称がよくないのかもしれない。現在の電算写植なんて、電算機としてはほとんど使われていない。コンピュータ使いにとってはもの足りない物なのだ。いっそ、自動写植とでもしておけばよかったものを。


 そこまでコンピュータに詳しい人材など印刷業界には元々いらないなどという人は、考え違いも甚だしい。これから、フルデジタルの時代にはいるのですぞ。フルデジタル化というのDTPで版下がだせるという程度のなまやさしいものではない。線画や写真をとりこみ、社内ネットワークを通じて組版ソフトに流し込み、場合によってはオンデマンド印刷機も扱ったり、インターネットに情報を提供したりといったことをやらねばならない。この段階に達し、効率よく運用するためには、プログラミングのできる人材が不可欠なのだ。そりゃまあ、高い金を払って、時間もかければ、自分のところでプログラミングなどしなくてもいいかもしれないが、プログラマのいる会社との競争には絶対負ける。


 件の彼は、今、猛烈な勢いで、ワープロから電算写植へのコード変換プログラムをCで書いている。Cコンパイラは幸いなことに何年か前私が勉強しよう思って買って置いたものがあったので、詐欺にならずにすんだ。入社からいくらもたたないのに、懸案だった変換プログラムを続々作ってくれている。毎日、次にどんな仕事をしてもらおうかと楽しみでしかたがない。


 この勝負、我が社の勝ちだな。



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