第130回 ケミカルレスCTPの時代|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第130回 ケミカルレスCTPの時代

 フィルム製版をやめてからのフルデジタル体制では、とにかくCTPの性能が全社の生産能力のキーポイントになる。今ある数年前のCTP装置ではとにかく遅くて、工程の阻害要因にすらなっていた。そこで更新ということを思い立ったわけだが、CTPも2世代目となるといろいろ考えることも多い。


 ・・・・というような話を3ケ月前に書かせていただいた。3ケ月前の時点では、各社の性能差はあまりなく、最終的には RIPとかシステムとしての使いやすさのようなものが決めてではないかと書いたけれど、ここにそんなすべての判断を帳消しにするとんでもないものが登場してきていた。ケミカルレスサーマルである。ケミカルレスサーマルの威力を見てしまうと、もう他のものは色あせてみえてしまう。ケミカルレスとは化学工程なしというぐらいの意味で、日本語でいうと現像なしということになろうか。


 厳密には現像工程がまったくないというわけではないが、少なくともアルカリ現像液がいらない。これで従業員の現像液の管理や機械の掃除などの手間は大幅に減る、廃液処理作業もないに等しい。これは現場の立場になってみるとどれだけ楽か。そして現像工程がない分、筐体が小さく場所をとらない上に、機構的にも単純で故障もおこりにくい。版を焼く速度は現像タイプの物よりかなり遅くなるが、最近のサーマルの速度は以前のものと比べて、数倍にもなっているから、ケミカルレスによる速度低下を割り引いても、充分に速い。まだ、導入して実際に稼働状況の統計をとっているわけではないので、営業の言い分の話半分としたとしても、まさにいいことづくめである。


 こうなってはもうケミカルレスシステムに決めるのは自然の流れだろう。


 しかし、ここからが単純な話ではくなった。刷版にケミカルレスサーマルを使うとしても、それを動かすCTP装置の選択にはまだ厄介な問題が残るのだ。RIPとCTPの機械はどこでも一体で提供される。つまりケミカルレスサーマルを使いたくて機械を換えるとRIPのソフトまで交換しなければならないのだ。たとえていうなら、プリンタを換えると、それを使うためのワープロソフトまで全部交換になるようなものだ。その昔はパソコン界隈でもそういうことも多かったが、Windowsの時代になって、まず、そんなことはなくなっている。ハードはハード、ソフトはソフトであって、自由に組み合わせることができる。これがCTPの世界では通用しない。


 ケミカルレスは使いたいが、RIPソフトをまったく交換してしまうのには抵抗がある。今使っているCTPのメーカーからはケミカルレスサーマルを使えるCTPを提供するという提案もあるにはあった。これだとRIPをかえないで、ケミカルレスサーマルを使えることになるからベストの提案なのだが、実績がまったくないという。何台も並べた上での一台ならメーカーテストの段階でも使いようがあるが、うちのような一台のCTPですべてをこなすという会社では実績のないものはあまりに危険だ。


 迷いに迷ったが、結局、ケミカルレスサーマルの力には勝てず、一番版との相性のあたりまえだが良い、版の供給と同じメーカーのCTPを導入することにした。もちろん、呈示された価格も選択には大きな影響があったことは否定しないが、ここにいたっては各社あまり差もなかった。RIPは全面入れ替えとなる。


 現場は、RIPの変更を最終的にはうけいれてくれた。彼らは言った。


 「なあに、活版から、電算写植に職場を替わった先輩に比べればRIPの変更ぐらいどうということはないですよ」


 秋からはケミカルレスサーマルが動く。



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