第128回 ついにデジタル印刷の時代へ|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第128回 ついにデジタル印刷の時代へ

 デジタル印刷とは昔のオンデマンド印刷のことだ。オンデマンド印刷は直訳すれば、「必要のある時(すぐできる)印刷」というわけだが、日本の町工場では、前夜入稿、翌朝納品といったオンデマンドオフセットが当たり前で、今更そういってもしかたがない。結果的に電子印刷とかデジタル印刷とか言う場合が多くなってきており、このコラムでも今までオンデマンド印刷と言ってきた一群のシステムをデジタル印刷で通すことにする。


 昨年のDrupaでも感じたことだが、デジタル印刷の品質が急速にオフセットに近づいている。そして今年、Drupaで出た新製品群がいっせいに市場にでまわりはじめた。これがいい。ちょっと興奮をおさえきれないぐらいだ。デジタル印刷自体は、15年ほど前から繰り返しその将来性が語られ、実際にさまざまな機械が登場してはいた。ただ爆発的に普及しオフセットにとってかわるところまではいたっていない。それが、今年は本物になる予感がする。


 普及期というのはそんなものだ。長い低迷のあと、突然爆発する。電算写植も1960年代からの長い試行錯誤の時期があってのち1980年代に一気に普及した。普及までの約20年間は将来性が信じられてはいたものの、新奇でしかなく、よほど必要性に迫られた会社か、物好きな会社しか導入していなかった。それはまさしく去年までのデジタル印刷機のように。もちろん、電算写植も1980年を迎えて自動的に普及したのではなかった。価格、品質どちらもが向上し、ある臨界をこえたとき爆発的な普及期を迎えたわけだ。


 デジタル印刷も品質はもちろん向上したが、価格のこなれようが著しい。そして、電算写植の普及期との対比でもうひとつ指摘しておきたいことがある。電算写植の普及はワープロの普及と密接な関連があったということだ。電算写植とワープロは極めて似た機械で、電算写植とは桁違いの量が生産されるワープロのハードやソフトが大いに電算写植の価格低下や性能向上に寄与した。


 実はデジタル印刷において、電算写植普及の時のワープロにあたるものがある。デジカメプリントをするために、急速に改善の進んだエンドユーザー向けプリンタだ。実際、インクジェットやカラーレーザーのここ数年の品質向上と価格低下はすさまじい。これがハード的にもソフト的にもプロ用のデジタル印刷機の品質向上と価格低下に資しているのは間違いがない。そういう意味でも、デジタル印刷はそろそろ爆発の時期のような感がする。


 しかし、爆発的な普及するにはきっかけがいる。価格と品質だけではだめなのだ。古い機能を代替するだけでは爆発的普及はのぞめない。電算写植は、画面の上で校正編集ができたり、一括置換という今までの活版や手動写植では逆立ちしたってできない機能が付加されたからこそ、普及にはずみがついた。そういえばデジカメも、1980年代から発売はされていたものの、1995年までは新奇ではあるが実用性は低かった。それが液晶モニタの普及機への搭載で、爆発した。今では当たり前となった液晶モニタをみながらの撮影、撮影してすぐの確認、失敗写真の削除。これらは液晶モニタを搭載することで可能となり、デジカメを単なる銀塩写真の代替以上の物にした。デジタル印刷も単なるオフセットの代貸である間は、品質と価格がオフセットに迫ったとしても、すぐにいれかわることはあるまい。


 デジタル印刷にはデジカメの液晶画面に匹敵するブレークスルーが必要なのだ。1枚づつ違う物を刷るバリアブル印刷がそのブレークスルーになるともいわれたが、実際にバリアブル印刷が実現して数年たつが、これをきっかけに爆発的に普及したという話も聞かない。


 すくなくとも、火薬の充填はすんだ。あとは何が導火線に火をつけるかだろう。



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