第12回 どこでもハイブリッド|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第12回 どこでもハイブリッド

 ハイブリットばやりである。Wikipediaでハイブリッドとうてば山ほど項目がでてくる。もともとハイブリッドとは二つ(またはそれ以上)の異質のものを組み合わせたもののことだ。生物関係で言えば雑種である。今、一番に思いつくのはハイブリッド自動車だろう。エンジンと電気モーターを併せ持ち、時に応じて使い分ける環境に優しいクルマとして盛んに宣伝されている。


 印刷にもハイブリッドという言葉が使われ出している。ハイブリッド印刷だ。では何と何を組み合わせたのか。色々使われ方はあるようだが、オンデマンド印刷とオフセット印刷の組み合わせなのである。


 オンデマンド印刷は品質が向上した結果すっかり定着した感もあるが、ではじめのころに言われたほどには伸びていない。もうひとつ普及のバンチに欠けるところがある。オンデマンド最大の利点と言われる短納期小ロットというコンセプトだけではまだ足りないからだ。短納期小ロットというだけならオフセットでも無理をすれば可能だし、この「無理」こそ日本の印刷屋の得意技でもある。つまりは短納期小ロットだけでは売り物にならない。もうひとつ何かが要る。デジカメは長く売れない商品だったが、背面液晶の搭載で大化けし、今やフィルムカメラを完全に駆逐してしまった。このデジカメの背面液晶にあたるオンデマンド印刷にとっての一工夫がなにかをみな考え続けてきた。おそらくはワントゥーワンマーケティングとかバリアブル印刷あたりにこの契機があると信じられて来たわけだけれど、長年言われているほどには進展がない。ここでハイブリッド印刷なのである。


 印刷会社数社と共同して出版者向けのオンデマンド印刷セミナーを行った。オンデマンド印刷全般についての講演を行った後、各社で得意のオンデマンド印刷製品を紹介するというものだ。これがなんとハイブリッド印刷の紹介が重なってしまった。内容を調整しなかったこちらも悪いのだが、3社がハイブリッド印刷をテーマとしていたのだ。それだけ、ハイブリッド印刷はオンデマンド印刷を長く商売にしてきた会社にとっては手応えを感じる商品となっているというわけだ。セミナー参加者からのアンケートでもハイブリッド印刷への感心が高かった。


 オフセットとオンデマンドとのハイブリッドといっても、オフセット印刷で印刷した物にオンデマンド印刷で刷り込むというのではない(そういうものを言う場合もあるが)。デジタルデータを時に応じて、オフセットで刷ったりオンデマンドで刷ったりという印刷方法である。ハイブリッド印刷は出版社を主にターゲットにしている。初版はオフセットで大量に刷り、再版以後をオンデマンドで細かく増刷をくりかえす。もしくは最初はテストマーケティングや見本本用に少量ほオンデマンドで刷り、反応をみて大量印刷需要があればオフセット。少量しかないならオンデマンドと使い分ける。


 なんだそんなことかと思うなかれ。コロンブスの卵。まずはこの技法、オフセットとオンデマンドの品質差がほとんどなくなったからこそ可能になった。初版と再版で品質差があったりしたら話にならないからだ。オンデマンドは、特にカラー印刷の領域ではオフセットとの品質差が大きかったが、この差が詰められたことが大きい。ハイブリッド印刷といっても、カラーだけオフセットではやはり利便性にかける。


 結局は、ワンソースマルチユースの一種なのだ。デジタル化の進展によって、CD-ROM、インターネットと何にでも容易に姿をかえうるということが、ついに紙の上でも可能となったということだ。ハイブリッド印刷はある意味、オンデマンド印刷の立場を見切ったということかもしれない。オンデマンドはオフセットを代替するものではなく共存するもの。使い分けるもの。対立する物ではない。ただそれだけのことなのだ。それだけのことに気がつくのに時間がかかりすぎたのかもしれない。



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