第83回 フルデジタルの陥穽|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第83回 フルデジタルの陥穽

 また事件である。CTPで出力したら、校正の時にはいっていた図とは、異なる図が出力されてしまった。モアレがでたとか、写真が黒くなったとかそういうレベルの話ではない。まったく違う図が印刷されたのだ。


 CTP以前は、「青焼き校正」でこの手の事故を防止してきた。フィルムに焼きこまれた画像は、意図的なすり替えでもない限り、青焼きを焼く時と、刷版に焼く時と違う物が出るとは考えられない。青焼きで間違っていれば、最終製品も間違っている。青焼きがあっていれば、最終製品もあっている。青焼きチェックは最後の砦。青焼きにはどれだけお世話になったことか。青焼きで発見した致命的ミスは数知れず。もちろん青焼きで見逃した痛恨のミスも数知れず。ごめんなさいクライアント様。


 さて、そこでCTPだ。CTPに青焼きはない。コンピュータのデータをアルミ版に直接焼くわけだから、青焼きの前提であるフィルムがなく、従って青焼きもない。さすがに青焼きなしでは不安なので、たいていは、青焼き代わりのプリンタが用意されている。うちでも、解像度以外はCTP出力とまったく同じ物が出力されるという大型のインクジェットプリンタを使っている。このプリンタ出力で調べて間違いがなければ、CTPにも間違いのない物が出力されるはずなのだが、冒頭の事件である。


 調査の結果、フルデジタルの世界には大きな穴がいくつも開いているのを実感せざるをえなかった。この件、以下の通り。


 まず、いつでもどこでも訂正をいれてくるのがクライアント様の常識なのだが、フィルムなら一部切り貼りですますところでも、CTPでは、もう一度DTPに戻って訂正し、出力はそのページ全部がやり直しとなる。これがまずもって問題。ここで、図をファイル上にはめ込みでなく、リンクで挿入している場合、校正の時だした図のファイルとまったく同じ名前をつけた別の図のファイルが上書きされていれば、出力される図は上書きされた方の図となってしまう。これを知らずに出力すれば、それは、違う図がでてしまうのは当たり前なのだ。


 しかしなんだって、違う図を上書きなどしたのか?ここには、もうひとつの陥穽があいていた。


 すこし前までは、DTPオペレーターは、図を全部自分で管理していた。スキャンされた図をフロッピーでもってくるにせよ、ネットを通じてとってくるにせよ、図はオペレーターが管理するものだった。この場合、図が勝手にかわるということはオペレーターがよほど不注意な扱いをしない限りおこりようがない。


 ところがフルデジタルとなって、扱う図や写真の量が半端ではなくなってしまった。効率を高めるため分業とならざるをえない。図のスキャンをする者はそればかり、写真のスキャンをやる者もそればかり、しかもサーバーを駆使するようになって、片っ端からサーバーの決められたディレクトリに、深い理解もなく、ほおりこむようになった。DTPオペレーターはなにも考えずに、そのディレクトリに直接リンクを貼る。ここで図の取り込み担当のオペレーターが、以前とたまたま同じファイル名をつけたら、そうなのだ。無条件で書き変わってしまう。普通、こんな入れ替わりがあっても、校正の時に発見されるだろうが、不幸にも、最終出力とその訂正出力のわずかな隙にファイルがおきかわってしまったら防げない。


 原因がわかったら、書き込み用ディレクトリと、読み込み用ディレクトリをわけるとか画像ファイル名を工夫するとか、対応のとりようはある。しかし、フルデジタルにはまだまだ陥穽がころがっていそうな気はする。一個づつ埋めて行くしかないんだろうけれど、気の滅入る話で。



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