第7回 選手交替近し|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第7回 選手交替近し

 前回。前々回とかなり暗い話を書いてしまった。DTPの導入によって印刷業界が悪い方に変わるかのような書き方であった。これは、私が老舗の印刷屋だからそう思えるだけなのは自分でも承知している。立場をかえてみると、これは夢のような成功物語に通じているのだ。


数年前、1人でワープロ入力の下請けをやっていた青年がいた。家庭の事情でどうしても在宅で仕事をしなければならなくなって脱サラしたらしい。青年は考えた。「ワープロの下請けでは主婦の在宅アルバイトとかわらない。印刷の版下まで作ってみよう」。青年は考えに考えてマッキントッシュとレーザープリンタを買った。まだ高かった。そして成功した。読者の方々が想像している通り、今やこの青年はイメージセッタをもって、押しも押されもしない印刷屋さんになってしまった。もちろん、印刷機はまだ持っていないけれど、そんなものは「下請け」に出せばいいと言ってはばからない。従業員も何人かいるが、年齢が若いから人件費も安く、従って、安値で受注できるという強みがある。折からの不況で、すこしでも安い印刷屋を市場は求めているから、この「印刷屋」さんは成長に成長を重ねている。


 新しい世代の強みは、印刷に固定観念がないことだろう。我々印刷業界人は、なにかというと、フィルムをつくったり、巨大な印刷機械をふりまわしたりするが、彼らは高価な製版機械も印刷機械も持っていない。あるのはリースのコンピュータとせいぜいコピー機だけなのだ。従って、コンピュータでできるところはすべてやってしまおうという意欲が旺盛だし、コピー機ですませるところはコピー機ですませてしまう。3年ほど前までは、こうした機材でできることは限られていたが、最近のコンピュータは高性能なものが極めて安価で手に入るから、コンピュータに慣れている彼らは強い。なまじ、製版機材をもっていないし知識もないから、画像などでもこともなげにデジタルで扱ってしまう。品質が旧来の印刷屋と完全に拮抗しているとはいいたくないが、まあ並ばれるのは時間の問題だろう。


 もちろん、彼らには営業力はまだない。印刷業界のように、発注される仕事とこなす業者がこうまで固定してしまうと、新規参入するのはなかなか難しい。この間に印刷業界自身がデジタル変革をとげて、来るべき時代に対応するというのが、お偉いさん達が描く、業界の未来のシナリオのようだが、無理なような気がする。いまだに、「私はコンピュータのことはな-んにもわからんのですわ」と言ってはばからないような人が、業界の構造改善事業を推進していたりするのだ。性能が1年で倍、3年で10倍という時代を生き残るには根本的に体質を変えなければ無理だ。さもなくば、業界全体の存続すらおぼつかない。一夜あければ、印刷業界全体がコンピュータ屋さんと入れ替わってしまっている可能性は十分にある。


 なにせ、コンピューをやってる奴等は若い。印刷業界とコンピュータ業界で、なにか会合があったとする。私はこういう会議に出ていく印刷業界人としはたいてい一番若い。ところが、相手のコンピュータ業界代表と来たら、一番、年長者でも、私より若かったりする。聞けば、学生の時に会社をおこして、すでに30なるやならずで、業界の重鎮だったりするわけだ。世界を席巻するマイクロソフトのビルゲイツは、40になったかならないかだし、あのASCIIの西和彦だって39にして、パソコン業界ではトップの地位にある。それにひきかえ、今38の私は、業界の末席につらなって、悲憤しているぐらいが関の山だもんなあ。



ページの先頭へ