第131回 インドからの挑戦状|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第131回 インドからの挑戦状

 最近、中国へ行ってきた。いまさらと思われるかも知れない。3年前、すでに印刷業界の中国詣ではひきもきらない状況だったからだ。しかし、いずれ中国はいきづまる。これからはインドだと3年前宣言したのが私だった。


 インドは、さまざまな産業の発展も著しいが、特にIT関連での発展には目をみはるものがある。すでに欧米のソフトメーカーは多くのソフトウェア開発をインドに移している。なにせ中国に匹敵する10億をこす人間がいる。その1/10でもハイテク産業につらなるだけで大変な生産力なのだ。人件費は圧倒的に安い。印刷業界でも、すくなくとも英語でのオンラインジャーナルがらみやデータベースなどの仕事は世界的にインドが大生産地となっている。英語なら、日本の印刷会社に何の関係があるのと思われるかもしれないが、驚くなかれ、日本で編集発行される英語雑誌はほとんどが日本国内で費消されるのである。うちをはじめ、日本のかなりの数の印刷会社が英語で食っている。日本にとっても大市場なのである。


 少し前までは、インドに仕事を注文するにしても、郵便が届かなかったり、納期が守れなかったりということがあったと聞くが、インターネットが一般化して、インドと需要地がダイレクトに結ばれた。ネットを通じて原稿を届けられるし、ネットで校正も届く。 ただ、中国と違って、印刷・製本はまだインドでは行えない。印刷に使う印刷機は国際的にそれほど価格が異なるわけではない。紙も国際相場というものがある。なにより、インドから日本へ印刷物を運ぶ手間があるから、印刷・製本はわざわざインドに発注するメリットがない。ここが中国とはことなるところだ。


 それでも人件費比率の高い英語組み版をインドで行うメリットははかりしれない。さあ、インド戦略を開始して、ユニクロが中国戦略でもうけたように、これからはインド戦略でガンガンもうけるぞという時、我が社いや日本は大変なことになってしまった。出版社がインドに直接組み版を発注しはじめたのだ。


 特に欧米の出版社からすれば、日本なんて、アジアの中で、英語のへたくそなわりに、人件費の高い国で、英語組み版の仕事を日本に発注する理由なんてなにもない。特にイギリス人は、植民地時代から、インドのコントロールには慣れているわけで、インドの方がはるかに使いよい。


 結果としてどうなるかというと、オンラインジャーナルコンテンツとの統合組み版のようなハイテク部分がインドに流れ、日本では印刷・製本だけしか残らないことになる。印刷・製本をローテクとはいわないが、決して「高度技術」ではない。


 組み版ではインドがいつのまにか、ハイテク先進地であり、日本はその中で、おこぼれに預かり簡単な仕事だけさせてもらうということになってしまったわけだ。それに印刷だって、中国、シンガポール、香港といくらでもライバルがいる。世界各国で郵政が民営化され、国際競争のまっただなかで、いずれ輸送費用の問題もかたがつくだろう。これらの国を日本からコントロールして工場として使おうとしても、結局は技術を実際にもっているところが強い。


 うーん、海外に向けて、大きな仕事をやろうと思うと、インドや中国、それにシンガポールといった国と真っ正面から競合することになる。なかなか勝ち目はない。結局、日本のローカルな世界で、部数の少ない日本語の仕事をこなしていくのが分相応だったのだろうか。なんだか寂しい。



ページの先頭へ