第20回 名付けてトホホファイル|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第20回 名付けてトホホファイル

 やって来ました。やって来ました。いつかこの日が来るとは思っていたけれど、今年になって目立って増えた。なにが? DTPディスクそのままの入稿である。もう、DTPファイルともなると、フロッピー入稿じゃディスク容量が追っつかないから、MO(光磁気ディスク)をはじめとして大容量媒体がばんばん使われる。ようやっと、文字テキストのフロッピー入稿が軌道に載ったと思いきや、もはやMO入稿の時代になってしまった。


 DTPソフトを使うと、レイアウトはもちろんのこと、書体や文字の大小などの組版指定、写真などの画像データまでファイルに入れ込める。それがそのままフロッピーやMOにはいってやってくるのだ。印刷屋は、そのファイルをなにもいじらずイメージセッタで出力して、製版して、印刷して、おしまい・・・になるわけはない。よほど、打ち合わせてあったとしても、書体があわない、レイアウトがおかしい、字の大きさに統一がとれていない、トンボがはいってない、というような素人ファイル独特の症状を呈している場合がほとんどなのだ。人呼んでトホホファイル。イメージセッターオペレーターが入稿されたDTPファイルを開いてみて、「トホホ」と悲嘆にくれてしまうファイルという意味だ。


 これをこのまま出力して納めちゃっても、バチはあたらないのだが、印刷屋の性がそれを許さない。「こんなみっともない印刷物の奥付に我が社が印刷者として載るのは耐え難い」のだ。それ以前に、出来映えにクライアント自身がが承知しない。自分で作ったファイルなのに、そのままの出力だと「もっと、綺麗なはずだ」とクレームがつく。「それはあんたの元のファイルの出来が悪いんや」といえない悲しさ。しかたないから、ちょっとDTPファイルに手をいれてやる。


 しかし、レイアウトをいじろうとすると、わけのわからん組み方がしてあって、解読するのに1日かかるし、書体を自社のものと合わせようとすると、一斉に字詰めが狂って直すのに一晩かかるし、字の大きさを統一しようとすると、無原則に字の大きさがかわっていて全文字ひとつづつ確認しないとあわせられない、などなど。結局、2日2晩徹夜する羽目になってしまう。


 だいたい、営業はDTPファイルだと、それがそのままフィルムになって出てきて、手間が省けるとしか思っていないので入稿から納期まで思いっきり短い場合。納期を前にスリルとサスペンスの直し作業の連続である。こんなことなら、一から電算写植で組んだ方がどんなに楽か。


 文字だけのフロッピー入稿の時代にも、こういうことはあった。送りがながめちゃくちゃとか、一行毎に改行マークが打ってあるとか、インデントを空白文字の羅列ですましてあるとか。これらはなくなったわけじゃないが、今となって見ればかわいいものだ。電算写植に持ち込んだらどうにでもなった。手間はかかるが、DTPファイルみたいな、やればやるほど、事態が悪化するということはなかった。


 もちろん、綺麗にやってあるDTPファイルもないではない。クライアントからのファイルをイメージセッタから出力すると、見事な4色分版フィルムで驚嘆したことがある。こういうファイルはトンボまでちゃんとはいっていたりしてこころにくい。しかし、それは少数派、大部分の素人DTPファイルはそのままでは使いものにならない。


 今日もオペレーターの嘆きが全国にこだまする。「トホホホホホ」



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