第16回 コンビニの電卓|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第16回 コンビニの電卓

 ちょっと、やっかいな事になった。今まで使ったことのないソフトで組まねばならない特殊組版に納期が迫ってきた。とりあえず、ソフトだけは買ってあるがインストールもまだとのこと。その日は金曜だったが、月曜までに組まないとどうにもならない。しかも、人の余裕はない。こういう事態になると、経営者自らがやらなくてはならない羽目になるのは、中小企業ではいたしかたのないところ。まあ、金曜の夜をつぶせばなんとかなるだろう。


 金曜の晩、残業の終わった時間からソフトのインストールにかかり、夜半とりあえず、完了した。さて、ソフトをたちあげてと思ったら、全くたちあがらない。表示にむなしく「メモリが足りません」の文字。全身から血の気がひく。おいおい、納期がせまっているのに。コンピュータの基本性能をあらわすのに、CPUの速度ともに、よくお目にかかるのがメインメモリ容量である。メインメモリはコンピュータを動かす上で重要な役割を担っている。これが足りないと、コンピュータ、特にソフトウェアが能力を発揮できない、小さな半導体チップだ。最近のソフトは、はなから、巨大なメインメモリを要求する物が少なくない。ただ、メインメモリはCPUと違って比較的簡単に増設できるから。足りないときは増設すればいい。・・・・店があいていれば。


 そう、その時、午後11時をまわっていた。メモリメモリ。コンピュータにとことん精通している人ならば、OSの設定や、ソフトのカスタマイズでなんとかなるのかもしれないが、今はそんな悠長なことをやってはいられない。第一成功する保証がないことに時間をかけていられない。とにかく、今はメモリが欲しかった。秋葉原などでは、24時間営業のコンピュータショップがあるかもしれないが、京都では無理だ。こんな時、コンビニがメモリを売ってくれればとふと思った。


 お笑いめされるな。今、コンビニには必ず、おにぎりや雑誌とともに雑貨のコーナーがあって、たいてい電卓がぶら下がっている。今から20年前、電卓がおにぎりと一緒に並べられると誰が想像しただろうか。うちの会社に電卓がはいったのは、25年ほど前だった。死んだ親父が、大事そうにもってかえってきて中学生だった私に見せてくれたのを覚えている。当時の金で20数万円はしたらしい。おそらくは、メーカーの営業がきて、なんども、見積もりをだしたり値引きの交渉をしたり、はてはメンテナンス契約までして導入したものだったろう。今のコンピュータのように。


 それが、あっというまに値下がり。いつしか電気屋の安売りの目玉商品となり、今ではコンビニの店先である。フロッピーディスクも同じような経過をたどって、コンビニの定番商品になりつつある。私は、大胆に予測するが、今後、メモリとかハードディスクは足りなきゃ買い足すというような、お気軽商品となる。コンビニにつり下げられる日も遠くないと思う。というか、なって欲しい。


 結局、その日はあきらめて帰宅。翌朝、開店と同時にコンピュータ専門店にとびこんで、メモリを買ってきた。専門店では、すでにメモリは店先に平積みの商品となっていた。昨年までは、すくなくとも、ガラスのショーケースにおさまっていたものだが。現金で、とにかくメモリを買って、会社にとってかえす。コンピュータの裏蓋をはずして、装着。さてこれで大丈夫。れれれれ。動かない。


 結局、設定にもう1日。コンピュータ家電化の道は険しい。私の土曜日を返せー。



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