第141回 色の道は険しい|学会誌・学術印刷全般・学会業務受託など、文化学術の発展に貢献する中西印刷

第141回 色の道は険しい

 色の標準さえ決まっていれば、色校もなにもいらないというターゲットカラーの話はこのコラムでも何度かとりあげた。日本中たとえばJAPAN Colorというターゲットを基準として定めておけば、違う会社同士でもそれを元にカラーのデータだけから同じ色を表現できるということだ。こう書くと当たり前のようだが、これはきわめて難しい。それを実感したのは、JAPAN Colorでないターゲットカラーの原稿が入稿してきたからだ。


 それは海外のクライアント。入稿してきたデータには色校などついていない。色校を欲しがるのはきちんとデジタル工程とカラーマネジメントが確立していないからだと言わんばかりの入稿のしかたである。で、ターゲットは・・JAPAN Colorであるわけがない。相手は日本じゃないんだから、標準が「日本の色(JAPAN Color)」というのは期待する方が無理だ。案の定、「SWOP」というのが、そのターゲット指定だった。調べてみると、世界には主に3つのターゲットが存在するらしい。ひとつはJAPANColorだが、あとはアメリカ中心のSWOP、もうひとつはヨーロッパ中心のEuro Colorである。


 ターゲットが決まっていたのならあとは簡単。SWOP基準で刷ればいい・・はずなのだが、だんだんおそるべき事がわかっていくのである。まず、日本ではSWOP準拠のプロセスインキが手に入らない。ターゲットカラーという奴、つまるところインキの標準化の問題である。たとえ製版段階で完璧な調色をしたとしても、違うインキを使えば違う色になってしまう。これは理の当然だ。だから、ターゲットがSWOPならSWOPのインキが手に入らなければどうにもならない。どこか探せばあるだろうと思っていたがそんな単純な物ではなかった。SWOPのインキは日本では手に入らないというのだ。


 インキというのは含有化学物質の基準が厳しい。本は子供がなめるかもしれないと言われたら厳しい基準に反論のしようもない。そしてこうした基準は国によって違う。SWOPインキを日本で輸入するとすれば、大変煩雑な手続きが必要でとてつもなく高価になってしまう。百歩譲って手にはいったとしても、毎日JAPAN Color標準のプロセスインキで大量の印刷物が流れていくなか、SWOP標準の時だけインキを全部入れ替えるなんてことは、現実的ではありえない。


 考えた結果、SWOP の色特性を JAPAN Colorの色特性に変換するプログラムを書けばいいのではないかと思いついた。デジタル世代にふさわしい発想の転換と思っていたが、やはりここもインキの特性を完全に再現することは無理ということがわかった。DDCPやトナー系のプリンタではそういう近似するオプションもついているが、オフセットに関してはインキ特性の壁がどうにも立ちはだかってしまう。いいアイデアだと思ったんだが。


 ここにいたって原点にもどることになった。同じデータをJAPAN Color とSWOPで刷った場合、どれだけ違うのだろうかを確かめてみることにした。SWOPインキは手に入らないから、DDCPで比較してみる。正直言って、あまり違っているようには見えなかったが、実際に測ってみるとやはり違いはある。


 最後にできること。SWOPで作ったDDCPを色校正代わりにして、 JAPAN Colorで刷るということだけだ。現実的な判断としてはしかたがない。


 もちろん、諸兄。ご指摘したくなるのはわかってます。これでは印刷機オペレーターの負担が大きすぎて、ちっとも色の標準化のメリットがでてこない。だいいちDDCPとはいえ、紙の校正を使ってるから、ターゲットカラーを使っている意味がない。わかっているのだが、それしかない。何か現実的な方法があったら教えていただきたい。


 色の道はどこまでもどこまでも険しい。



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